欧米の繊維産業はさらに先へ
この19世紀末から20世紀初頭にかけての世界の繊維産業の状況をみてみましょう。
このころになると世界の繊維の中心は化学繊維に移りつつありました。化学繊維の歴史は、まずは再生繊維のレーヨンから始まり、その後は合成繊維のナイロンやポリエステルなどが主役になります。そしてその技術開発と工業化の中心にいたのはドイツでした。
生糸(絹糸)や綿糸などの天然繊維に比べて、化学繊維の製造にははるかに大規模な設備が必要になります。つまりドイツの産業革命(第二次産業革命)には、それなりの費用が必要でした。一方、すでに産業革命(第一次産業革命)を経験したイギリスは、この頃になると工業国から金融立国に変貌しつつありました。そうした中で日本は、投資額が少なくてすむ生糸や綿工業による産業革命に注力していたのです。いわば「遅れた産業革命」というものでした。
当時の日本は、まだまだ欧米先進国の先端技術には追いついていませんでしたし、イギリスのように金融システムを発展させて稼ぐような体制にもなっていませんでした。そうした中で、日本は、欧米先進国が注目しなくなった「繊維産業」というニッチを巧みに利用し、産業発展の基礎固めをしていきました。もちろん当時の日本にとって、これは極めて重要な一歩であり、十分なリターンを期待できるものでした。