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 手術になくてはならない「麻酔」。「意識をなくす」麻酔と「痛みをなくす」麻酔は別の方法で行われることをご存じだろうか。麻酔をかけられた人体はどのような状態になっているのか? 外科医・山本健人氏の著書『すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険』(ダイヤモンド社)から一部抜粋・再編集してお届けする。(JBpress)

全身麻酔の3要素とは

 全身麻酔手術を受けた人の家族からよく驚かれるのが、終わった直後から本人が話せることである。手術室からベッドで搬出されてきた患者と、そこに駆け寄る家族、という光景は医療ドラマでもよく描かれるが、それに本人が受け答えする、というシーンまで描かれることはあまりない。どちらかといえば、病室に戻ったのち、ずいぶん時間が経ってからゆっくり覚醒し、「やっと目が覚めた!」と横で見ていた家族が喜ぶ、というのがドラマではお決まりのシーンだ。

 実は、多くの全身麻酔手術において、麻酔から覚めるのは「手術直後」である。手術室の中で麻酔から覚め、手足を動かしたり、話しかけに応答できたりすることが確認されたのち手術室を出るからだ。

 全身麻酔については「眠っている間に終わる」と説明されることが多いが、厳密には、意識を失うだけで十分というわけではない。「鎮静」「鎮痛」「無動(筋弛緩)」を全身麻酔の3要素という。麻酔中はこれらがすべて維持される必要があるのだ。

「鎮静」とは意識をなくすこと、「鎮痛」とは痛みをなくすこと、「無動」とは筋肉を弛緩させ(ゆるんだ状態にし)、動きをなくすことだ。これらを、別々の薬を使って実現するのが現代の全身麻酔である。