コロナ対策向けに構築された政府のITシステムでトラブルが多発したことや、みずほ銀行における致命的なシステム障害の発生など、日本のITが諸外国と比べて稚拙であることを認識させる出来事が多発している。以前から日本の技術力強化を求める声が高まっており、筆者もそれについてまったく異論はない。だがIT化の流れというのは1990年代から連綿と続いているものであり、30年間の積み重ねによって今の姿になった。

 近年、日本がIT後進国になったという言葉をよく耳にするが、昔は先進国だったのに、急に後進国になってしまったのではない。日本のIT化は初期段階から躓いており、それが今の惨状をもたらしていると考えるべきだ。この不都合な真実をしっかりと受け止め、現実を見据えた対策を打たなければ、いくら開発強化を叫んだところで絵に描いた餅となってしまう。(加谷 珪一:経済評論家)

日本は90年代以降、IT投資額をまったく増やしていない

 コンピュータに関する技術そのものは70年代から発達を続けてきたが、社会全体にITが普及し、ビジネスに質的な変化が生じ始めたのは90年代のことである。パソコンの急激な普及と、それに続くインターネットの拡大が原動力となったことは説明するまでもない。

 日本は80年代までは半導体やコンピュータ機器の製造で相応の成果を出しており、トップランナーの1人であった。だが90年代を境に日本のIT産業は競争力を失い、社会全体のIT化も先進諸外国と比較して大きく出遅れている。