地方分散型の経済力伸長が日本にとっての最大の安全保障策になる

 現在、日本を取り巻く安全保障環境はキナ臭さが増し始めています。中国はものすごい勢いで軍事力を増強しています。北朝鮮の核やミサイルは日本を脅威に晒しています。

 こうした中で、日本は安全保障面での備えをしていかなければならないわけです。

 現在その司令塔の役割を担うのは、2013年に内閣総理大臣を議長として発足した国家安全保障会議や国家安全保障局、いわゆる日本版NSCです。ここで日本を取り巻く情勢を分析し、国家安全保障戦略を作るわけです。このような体制になったのは8年前からですが、ではそれによって日本の安全保障環境が好転し、国防の見通しは明るくなったでしょうか。正直に言えば、だんだん厳しくなっていると指摘せざるを得ません。

 日本の防衛力が低下しているように見えるのは、ちょっとした防衛費の多寡とかミサイル防衛の欠如というような要素は大きくは関係しないと思います。それらは、国の防衛面でもちろん大切なことですが、国をひとりの兵士に例えるなら、これらは兵士が持つ武器を増やしたり新しいものに替えたりするようなものです。

 私はいま防衛力強化に一番大事なのは体質改善だと思っています。つまり兵士に強力な武器を持たせるだけではなく、兵士の体質を改善させたり筋肉質の体にしたりすることが大切だと思うのです。国家で言えば「経済力の強化」です。経済力を強くすることが、不戦を誓う日本という国にとっては最大の防衛力になるのです。そして、その経済力も、単に一握りの大企業や東京に本社を持つ企業だけが稼ぎ出すのではなく、個々人やそれぞれの地方が高めていくことがより重要になってくると思うのです。

 幕末の話に戻れば、イギリスと戦争をした薩摩藩や長州藩は、戦争終結後、相手国と信頼関係を結びました。つまり江戸幕府とは別個の、諸外国とのパイプを地方が独自に持っていたのです。このように、国家や一握りの大企業だけではなく、経済力を備えた地方の自治体や企業が対外的なパイプを張り巡らすことが、ひいては日本という国家全体の安全保障に最も効果的なスタイルなのではないでしょうか。まさに幕末のスタイルです。私はこの「新幕藩体制」を目指すべきだと考えています。

 江戸時代には、江戸幕府という国全体を統括する政体がありながら、薩摩や長州のように各藩が独立国家的な気概を持ち、経済力を高め、外国と渡り合いました。そういう中央頼みではない独立志向を持った地方の結集体としての日本がこれからの目指すべき姿です。もちろん安全保障や治安は一義的には国家が担当することになりますが、各地方は自分たちの食い扶持を自分たちで作って経済的に自立していくことで、また、自分たちの地元でアントレプレナーを育て、それも地方の特色として打ち出していくことで、独自に様々な国や他国の自治体・企業などと関係を築いていくのです。

 例えば、私がアドバイザーをしている埼玉県越谷市は人口約35万人の都市です。人口規模で言えばアイスランドとほぼ同じです。仮に越谷市がアイスランドと同じくらいの世界における存在感を持って、独自に自治体外交を展開できたとしたらどうでしょう。それが日本中に300カ所あったら(単純に人口的には可能)どうでしょう。各地が独自の特色を持ち、独自の産業も生み出してくれるはずです。

 日本には同規模の自治体はたくさんあります。それぞれがまずはローカル・トゥ・ローカルとも言われる自治体外交を展開できれば、日本は多彩な特色と強い経済力を備えた「政府・自治体=新幕藩」の集合体に変わっていくことができます。万が一、日本と他国との間で安全保障上の緊張が高まった場合には、ローカル・トゥ・ローカルのパイプを通して緊張緩和の方策を探ることができます。そうしたパイプは複数あるに越したことはありません。もちろんミサイル防衛のような装備面での強化も大事ですが、社会の分散化と経済力の強化を安保論の文脈からも進めていくべきではないでしょうか。

 このような安保戦略こそが、80年前の開戦に至る経緯を反省し、不戦の誓いを立てた日本に相応しい姿だと思うのです。