(英エコノミスト誌 2021年8月14日号)

まもなく退任するドイツのアンゲラ・メルケル首相

おっかなびっくりの論戦では、欧州最大の経済大国が直面する厳しい選択に立ち向かえない。

 9月26日に行われるドイツ連邦議会選挙(総選挙)は、新時代の始まりを告げる。首相を16年務めてきたアンゲラ・メルケル氏は引退する。後任が誰になるかはまだ分からない。

 連邦議会選挙は比例代表(政党名簿投票で5%以上得票できない政党は議席を得られない)と小選挙区を併用している。

 歴史ある大政党、すなわちメルケル氏の所属する中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)とバイエルン州の姉妹政党キリスト教社会同盟(CSU)、および中道左派の社会民主党(SPD)は得票数を減らしており、ドイツの連立政権はよく右派と左派との断絶をまたぐ。

 そのため仮に世論調査が正確であっても次の政権を予想することは難しく、その世論調査は正確でないことが多い。

モデルから浮かび上がる3つの可能性

 本誌エコノミストは今回、多くの世論調査の結果と、予想に利用できるほかのデータを統合するモデルを開発した。

 そして選挙のシミュレーションを数千回実行し、最も実現しそうな選挙結果と、さまざまな連立の組み合わせが過半数を取る可能性を試算した。

 モデルによれば、連邦議会で過半数を獲得しそうな連立の組み合わせが3通りあり、それぞれ各党のシンボルカラーにちなんだニックネームが付けられている。

 CDU・CSU(黒)と緑の党(緑)、そしてリベラルの自由民主党(FDP、黄色)による「ジャマイカ連立」、緑の党とFDP、SPD(赤)による「交通信号連立」、そして実現の可能性が最も小さいと見られているCDU・CSUと緑の党の「黒・緑」連立だ。

 本誌のモデルの試算から分かるのは、この選挙はとにかく先が読めないということだ。

 有権者は、誰が勝ちそうなのか分からないだけではない。どの党が本当は何を主張しているのかもよく把握していないのだ。

 これまで行われてきた選挙戦は、がっかりするほど皮相的だ。

 真剣な政策論争を避け、党首の小さな落ち度や失策ばかり取り上げている。国の歴史において重要な瞬間になるのに、ドイツの市民にはどの方向に進むのかというはっきりした選択肢が与えられていない。

 各党はもっと努力しなければならない。