(英エコノミスト誌 2021年8月7日号)

恒大集団と中国華融は氷山の一角にすぎないのかもしれない。
7月上旬に中国の銀行の間で飛び交った1通の文書が、投資家と地元政府当局者の不安を招いた。
「15号文」として知られる公文書は銀行に対し、多額の債務を抱えた融資平台(地方政府の資金調達事業体=LGFV)への融資を打ち切るよう通達していた。
LGFVとは、市や省政府が建設プロジェクトや公共工事の資金を調達するために立ち上げる企業のこと。
これまでデフォルト(債務不履行)を許されていなかったLGFVは合計で約48.7兆元(7.5兆ドル)の債務を抱えており、そのうち11.9兆元は債券などの確定利付証券で保有されている。
消えた公文書
こうした企業は往々にして、債券の金利を支払うために銀行融資を利用する。着実な融資の流れが途絶えれば、混乱が生じるのは必至だ。
「銀行が輸血を行わなければ、LGFVはデフォルト危機に直面する」。ある地元投資家は中国メディアにこう語った。
しばらくすると、回覧されていた文書が消え、国営メディアでも文書への言及がほぼ立ち消えた。
一部の投資家は、公文書は早計に発表されたもので、今後、そこまで厳しくない別のバージョンが出されるのではないかと見ている。
一方で、銀行は命令を実行に移しているが、LGFVによる最初のデフォルトが債券市場(LGFVが発行している証券が全体の約10%を占める)で大混乱を引き起こすことを恐れていると見る人もいる。
これが中国の金融規制当局が直面しているジレンマだ。
当局としては、経営がお粗末なLGFVが資本をため込むのを阻止し、著しい経営難に陥った企業の破綻を容認しなければならない。
だが、パニックを引き起こしたり、健全な企業の資金へのアクセスを絶ったりせずに、これを成し遂げなければならない。
LGFVは、当局者の決意を試している多くのケースの一つにすぎない。