(英エコノミスト誌 2021年8月7日号)

暗号資産と主流の金融資産とのつながりを解き明かすのに役立つ思考実験
昨今の暗号資産の急膨張はまさに驚異的だ。
情報サイトのコインマーケットキャップに掲載されている暗号通貨の数は、つい1年前は約6000種類だった。それが今では1万1145種類に上っている。
暗号通貨の時価総額の合計も3300億ドルから1兆6000億ドルに膨れ上がっている。1兆6000億ドルと言えば、カナダの名目国内総生産(GDP)にほぼ等しい金額だ。
また、ユニーク・デジタルウォレット数(暗号資産取引口座の件数集計指標の1つ)も2018年の約3倍に増加し、1億を超えた。
デジタルウォレットの利用者のレベルや資金力も上がっている。売買代金に占める機関投資家のシェアは、2017年の10%から63%に急拡大した(図1参照)。

アンソニー・スカラムチ氏が運用するヘッジファンド、スカイブリッジ・キャピタルの例を見てみよう。
分散投資を手がける35億ドル規模の同社旗艦ファンドは、昨年11月から暗号資産への投資を始め、今年1月には5億ドル規模のビットコイン専用投資ファンドも立ち上げた。
その結果、裕福な個人投資家から政府系ファンドまで多岐にわたる同社の顧客2万6000件による暗号通貨への投資は増加している。
ダイバーシファイド・ファンドの総資産に占めるビットコインの割合は5%から9%に拡大した。専用投資ファンドの価値も約7億ドルに膨らんだ。
成熟化しても収まらない乱高下
しかし、こうした成熟によって暗号資産市場の特徴である価格の乱高下が収まったかと言うと、そんなことはない。
例えば、4月に6万4000ドルだったビットコインは、翌5月には3万ドルにまで落ち込んだ。現在は4万ドル前後で推移しているが、つい先日、7月29日にも2万9000ドルまで下げる場面があった。
急落のたびに浮上してくるのが、その悪影響はどこまでひどいものになるのだろうかという疑問だ。
暗号通貨が暴落した時に危険にさらされる金額は相当多いように思える。それも、その被害を受けるのは、ビットコインは金融の未来だと考える意固地な人々だけではない。
現在、暗号通貨の売買の大半をアルゴリズム・トレーダーが手がけており、ビットコインの価格がある特定の水準を下回ると自動的に「買い」注文が出てくる。
それでも、暗号資産の世界と主流派の金融市場との関係が深まっていることを理解するために、ビットコインが大暴落してその価格がゼロになったところを想像してみることにしよう。