なぜこのような聞き方が「いい」とされるのでしょうか。それは、この方法を実践すれば、自分が欲しいものが手に入る(つまりデートする、売り上げを上げる、最善条件を交渉する、企業の出世階段を上る)という前提があるからです。

 確かに、傾聴はこれらの目標達成の一助となるかもしれません。しかし、それがあなたにとって人の話を聞く唯一の動機なのであれば、それは聞いているふりをしているにすぎず、相手はすぐに気づくでしょう。もし本当に相手の話を聞いているのなら、そんなふりをする必要などありません。

 聞くという行為には、何よりも好奇心が必要です。マクマナスは、抑えられないほどに好奇心旺盛です。でも、みんな子どものころはあらゆるものが目新しく、何に対しても誰に対しても好奇心旺盛だったはずです。

マクマナスが尋問の代わりにやったこと

 元CIAのマクマナスはこう言いました。

「ここまで来ると、自分が聞いたことのない話なんて、そうはないだろうと思うじゃないですか。それでも、人との別れ際には間違いなく、『あの人があんなこと話してくれたなんて信じられない』とびっくりするんですよ」

 たとえば、裕福な顧客からの依頼でマクマナスが調査していた医師が、自分には麻薬癖があると白状したことや、ヨットの船長が、習慣的に自傷行為をしていると話してくれたことがあるそうです。

「でもね、そういう瞬間にこそ、自分のスキルは誰にも負けないと思えるんです」

 マクマナスは、CIAにいたときの役職名は主席尋問官でしたが、尋問はなるべくやらなかったし、効果も薄いと言います。

「私は尋問がいいと思ったことはありません。もちろん、尋問の何たるかはわかっています。たとえば、あなたを吐かせようと激しく詰め寄れば、あなたは何かしら言うでしょうね。しかしそれは信頼できる正しい情報でしょうか?」

 マクマナスは首を振ってこう続けました。「使える情報を出してもらうには、辛抱強く時間をかけて、よい聞き手になるしかないんです」。

 彼のアプローチは痛めつけて自白させるのではなく、あなたのストーリーを聞かせてほしいと被疑者に語りかけることでした。

 マクマナスは、こんなことを話しました。パキスタンの核科学者マフムード・スルタン・バシール・ウッディンに、オサマ・ビンラディンと会ったことを認めさせようとしていたときのことです。

 9.11のアメリカ同時多発テロ事件から間もなく、攻撃の首謀者を捕まえようと、各諜報機関が躍起になっていたときでした。

 そんな状況のもとで、マクマナスはなんと、アフリカ系アメリカ人が歴史的にどのような経験をしてきたか、示唆に富む会話をじっくりとバシールと交わし、おかげで敵対する代わりに、一風変わった信頼(ラポール)関係を築きました。

「私はただ、アメリカの公民権運動や黒人の苦労について、バシールが話すのを聞いているだけでした。彼は、私よりアメリカ史に詳しかったんですよ。普通では考えられないほどじっくり話をした後、彼にこう聞いたんです。自分の話を“あいつら”に話すよりは、私みたいなやつに話したいとは思いませんか、と。“あいつら”が誰だか、私にはよくわかりません。“あいつら”と言うことで、彼に頭の中で誰かを思い浮かべて欲しかったのです」

 バシールは、マクマナスに自分の話を聞いてもらいたい、と言ったそうです。