彼は、自分と違うタイプの人の話に耳を傾けると、まるでハイになったかのようにわくわくするのです。相手がかなりの悪人であっても変わりません(むしろ悪人なら特にわくわくするかもしれません)。
「たとえ何の情報も聞き出せなかったとしても、話を聞けば、相手の考え方、立場、信条を知ることができるでしょう。この男性の外見は? 考えは? 西側諸国をどう思っている? 私のような人間をどう思っている? かなり刺激的です。おかげで、私は人間としてさらに成長できるのです」とマクマナスは言います。
「人をその人たらしめているのは、人生でのさまざまな経験でしょう。たとえば、一度自爆テロ犯の説得に失敗したとしても、後日、自爆テロを実行する直前だったり、しようか悩んでいる人物を説得するのに役立つかもしれません。道を誤った人物に会ったことがあれば、いま瀬戸際にいる人のことが理解できるようになるものです」
CIAが採用するのは、聞く力が優れている人
マクマナスによると、CIAは局員の聞く能力を伸ばす訓練をするよりも、もともと聞き手として優れた人を採用することに注力しているそうです。
いちばん優秀な聞き手は、取り調べと諜報活動に配置されます。その他の人は、分析官やサイバーセキュリティ担当官など、他の業務に配置されるそうです。CIAが優れた聞き手を育成するよりも、採用する方針をとるのは無理ありません。傾聴は、再現可能な科学というよりアートですから。それにその科学も、今のところ、十分研究しつくされたとは言えません。
コミュニケーション研究において、「聴くこと」は、効果的な演説、修辞法、論法、説得力、宣伝活動などの研究と比べると脇へと押しやられて、忘れられています。「聞く」という行為をとりあげた研究は、ほぼ、学校教材を生徒がどの程度理解するかを調べたものしかありません。
相手は「聞いているふり」に気づく
いかにして良い聞き手になるかの手っとり早いアドバイスは、巷にたくさんあふれています。そのほとんどは、ビジネス・コンサルタントやエグゼクティブ・コーチによるものです。
彼らの方法論は要するに、聞いている姿勢を見せましょう、それには、アイコンタクトをする、うなずく、ところどころで「そうだね」を入れることが有効ですよ、さらには、話をさえぎってはいけない、相手が話し終わったら言葉を繰り返したり、言い換えたり(パラフレーズ)して合っているか確認し、合っていなければ直してもらえというものです。