「朴槿恵弾劾」をめぐる保守野党の内部葛藤
2016年12月、朴槿恵前大統領に対する弾劾案が国会で可決されたとき、もし与党(現野党「国民の力」)が団結し、これを阻止していたなら朴槿恵が弾劾されることはなかった。弾劾案を可決するためには、全体300議席中の3分の2である200名以上が弾劾に賛成しなければならない。当時、与党は120議席を占めていた。野党や無所属が全て弾劾賛成とはいえないので、当時の状況では与党から少なくとも28人以上の議員が離脱し、野党とともに弾劾賛成に回らなければならなかった。
与党が大統領弾劾に賛成したという事実に驚く人もいるかもしれないが、政界の権力争いは非情だ。与党に所属していながら野党(現与党)と協力し弾劾賛成票を投じた議員が60名以上も出てきたのだ。結局、与党の内部分裂は大統領弾劾案可決という事件を引き起こすと同時に保守の没落を招くことになった。
保守層の中には、このときの与党内弾劾賛成派を保守陣営の「背信者」とみて、今なお反感を抱いている人が少なくない。保守層にしてみれば、朴槿恵弾劾に手を貸した保守陣営の「背信者」たちは、現政権以上に許しがたい存在のままだ。
李俊錫党代表は、当時議員ではなかったが、弾劾に賛成した与党議員たちが党を離れ作った保守性向の「正しい政党」に入党し朴槿恵を批判した。つまり「朴槿恵キッド」が弾劾賛成側の立場に立ったのだ。その後「正しい政党」が没落すると、保守第一野党である国民の力(旧・朴槿恵政権の与党)に入党し、ついに党代表の座についたのだが、党内部には李代表が過去に朴槿恵弾劾賛成派についたことを内心ではまだ怒っている人たちもいる。
では、国民の力に新たに加わった尹錫悦前検察総長とは何者か。2016年、朴槿恵スキャンダルを調査する特検の捜査チーム長に任命され、大小全ての罪を掻き集めて朴槿恵を起訴し、結果的に朴槿恵を弾劾に導いたのが他ならぬ尹錫悦前検察総長なのである。文在寅政権による彼の検察総長抜擢は、当時の序列を考えれば特例中の特例であり、破格人事である。これが朴槿恵弾劾に対するご褒美人事だと言われているのはそのためだ。今なお朴槿恵支持者たちの大部分にとって、彼は仇でしかない。
もし今朴槿恵が釈放されたらどうなるだろうか? もともと韓国人は他人の「悲しみ」、「悲劇」に弱く、同情心に流される傾向が強い。政治報復によって4年も服役した朴槿恵に対し同情的な雰囲気が韓国の保守層の心を揺さぶるだろう。再び保守内部で朴槿恵を支持し続けた弾劾反対派と弾劾賛成派の衝突が起こることは想像に難くない。
保守野党は大きな混乱に陥ることになるだろう。状況次第では離脱が相次ぎ、再び党分断の危機に陥る可能性も大いにあり得る。
そうなれば、今度は現与党が反射利益を受ける立場に立つ。現与党は経済政策の失敗や、大物政治家たちによる不正、腐敗スキャンダルで支持率の低下が止まらず、これを挽回するのは容易ではない状況だ。だとすれば、来年3月の大統領選挙に向けた戦略としては、支持率上昇のために奮闘するよりも、相手(野党)の支持率を分散させる方が確実で効果的だ。そのための最も大きな破壊力を持つのが、朴槿恵の赦免という「爆弾」であることは言うまでもない。