(崔 碩栄:ノンフィクション・ライター)
韓国保守野党「国民の力」が好調だ。今年に入って政党支持率が徐々に上昇し、ついに7月には4年9か月ぶりに与党の支持率(31%)を上回る32%の支持率を記録した。この勢いの理由の第一は文在寅(ムン・ジェイン)政権に対する失望だろう。
文政権は、政権初期に米朝韓の会談の実現、北朝鮮の平昌オリンピック参加など相次いで国民の期待に応え、さらなる期待感を背景に比較的長期にわたり高水準の支持率をキープした。
だが、結局北朝鮮は核を放棄せず、開城工業地区に建てられた韓国所有の建物を公開爆破するなど、韓国に脅しをかけるような政策を繰り返し、むしろ南北関係は悪化した。さらに、内政においても不動産政策は失敗、曺国(チョ・グク)元法務部長官のスキャンダルに代表されるような政権中心部の不正事件が相次ぎ支持率は加速度的に落下した。このような政権失速の反射利益を得たのが第一保守野党である国民の力である。
そしてもう一つ、保守野党を勢いづけた要因がある。6月に36歳の若さで党代表に選出された李俊錫(イ・ジュンソク)代表と7月に入党した前検察総長の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏の存在だ。
頭の回転で圧倒しつつ相手追い詰めすぎない討論スタイルで人気の保守派きっての論客
李代表は1985年ソウル生まれ。韓国最高の英才高校と言われるソウル科学高校を早期卒業した後、米国のハーバード大学に進学し、コンピュータ工学を専攻した。卒業後は韓国に戻り、ベンチャー企業を立ち上げ活動していたが、この頃から『ハーバードを卒業した20代のベンチャー起業家』として世間からの注目を集め始める。これが当時、保守与党の非常対策委員長として党を取りまとめていた朴槿恵(パク・クネ)の目に留まり、非常対策委員会への加入を要請された。これが彼が政界に入ったきっかけである。彼に「朴槿恵キッド」という別名がつけられているのはこれに由来する。
政界に入った後は主に若者層の声を代弁し、党内改革を推し進めるための「ブレーン」として活躍してきたのだが、彼の大衆的な知名度を上げたのは、テレビ出演である。いくつもの放送局における討論番組や時事プログラムに出演し、事実を基盤とした緻密な論理展開、そして頭の回転の速さで相手を圧倒しながらも、劣勢に立たされた相手を責め込まないジェントルな姿に、若者層を中心に支持が広がった。討論においてはほぼ無敵で、圧倒的な論理展開を見せてきたために、今では韓国の左派からはもっとも討論を避けたい相手と目されるようになったのと比例して、大衆からの人気を集めた人物である。