(廣末登・ノンフィクション作家)
このご時世、暴力団も楽じゃない。暴排条例、コロナ自粛でシノギを奪われている。才覚ある組織はフロント企業などに移行してリスキーなシノギを敬遠する一方、そうした能力の無い組織は、リスクの高い薬物の取引などをシノギとする以外に生き残る道がない。そんな状況だから、刑務所に収監されている暴力団員の間では、離脱を真剣に考える者が増えていると矯正関係者から聞いた。
だが、これまでに話を聞いた暴力団離脱者の中には、離脱しても更生しきれず、再び犯罪社会に戻る者も多い。
筆者が見聞きした中にも、偽造した身分証明書によるスマホの違法契約と販売、薬物販売、薬物常習者への脅迫、不法侵入した店舗からの金庫泥棒など、様々な悪事を重ねている人がいた。
警察庁の資料を見ても「離脱者の一千人あたりの再犯率をみると、2011年に離脱した者のうち、その後2年間で検挙された者は、一般刑法犯の再犯者検挙人員と比べ約60倍である」と、暴力団離脱者の再犯率の高さが指摘されている(警察庁組織犯罪対策部「平成二十八年における組織犯罪の情勢」)。
自分の彼女や仲間などとツルんで悪事を働く人もいる。芝居さながらに絵図を描く手法を、業界では「劇団イロハ」と呼ぶ。取材していた筆者自身も、図らずもこの連携プレーの被害に遭い、金銭的損害を受けた。
元暴力団員による犯罪の報道をいちいち列挙したらキリがないが、大体、食い詰めた元暴は、薬物の密売か特殊詐欺にはしる傾向がある。
暴力団が統制する薬物市場
覚せい剤。これは元暴の犯罪としては鉄板ネタといえる。時事通信2019年3月13日の記事によると、タイ警察が、知人の日本人男性を運び屋にして覚せい剤を日本に密輸しようとした疑いのある元暴力団員を逮捕したと発表した。
逮捕された元暴力団員は、日本に一時帰国するバンコク在住の男性にゴルフバッグの搬送を依頼。男性が調べたところ、ドライバーから白い粉が出てきたという。この粉末は覚せい剤で推定700グラム入っていたとのこと。警察は12日にバンコクの容疑者宅を捜索し、覚せい剤4.46グラム、大麻0.063グラムなどを押収。薬物の販売目的所持容疑で逮捕した。
日本の覚せい剤市場は、現在に至るまで暴力団が管理している関係で、高値で取引され、なかなか値崩れしないことから、裏社会では、多少リスキーであるものの、確実に儲けられるビジネスとして支持される。