1990年代の「苦難の行軍」の頃の北朝鮮。薪を運ぶ女性(提供:World Vision Japan/AP/アフロ)

(李 泰炅:北送在日同胞協会会長)

 数万人の脱北者が米国、英国、中国など世界各国で暮らしている。中でも、韓国と日本は北朝鮮脱出者が多く定住している地域である。私は現在、韓国で暮らしているが、首領という唯一神に忠誠を誓わなければならず、弾圧を受け、押さえつけられていた心が、自由民主主義の中で解き放たれ、大きく膨らんでいる。

 報道や記事など脱北者を通じた数多くの情報発信によって、北朝鮮の生活実態が一つひとつ明らかになっているが、北朝鮮の医療に関する情報は多くはない。実際、私がJBpressに寄稿した北朝鮮生活体験をお読みいただいた読者から、北朝鮮の医療実態について多くの質問を受けている。

・第1話「『地上の楽園』北朝鮮に渡った在日朝鮮人が語る辛苦」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64819)
・第2話「脱北した在日朝鮮人医師が体験した脱出劇のリアル」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65006)
・第3話「ミャンマーで投獄された脱北者の私が自由を取り戻すまで」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65372)
・第4話「脱北医師が亡命して驚いた、共産主義を礼賛する韓国左派の無邪気」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65688)

 北朝鮮の医療は「無償治療制」と切り離すことができない。70年以上にわたる全般的無償治療は金日成(キム・イルソン)主席の業績とされ、北朝鮮の社会主義自賛されている。60年代の「北送(帰国)」と呼ばれた北朝鮮への大移動でも「無償治療」の宣伝文句は人気だった。

 私は北朝鮮に送還されて以降、45年間の北朝鮮生活で目の当たりにした無償治療の真実を明らかにしたいという衝動に駆られている。