まだ「1部」に慣れていない地元ファン

 旧市街でサッカーの話題になると、もちろん誰もが笑顔になる。1部に上がったばかりの我がクラブがマドリーとバルサという巨人を破った事実を、みな誇りに思っている。

 老舗バルCasa Mantecaに立ち寄る。1953年創業。ここで人は必ずチチャローネスをつまむ。運ばれてくる純白のシートの上に、絶妙の薄さにスライスされたパンセタ(豚バラ肉)のローストが行儀よく並ぶ。地中海の粗塩、ほのかなスパイス。頬張る客は皆チームに(それもかなりのレベルで)詳しかった。

「バルサとマドリーに勝てるなんて、誰も思ってなかったさ。別に世界を騒がす美しいサッカーをしてるわけじゃない。それでも結果は手にしてる。なんというか、誇りだ」

 1部という現実にまだ慣れない人もいる。

 長いこと日の目を見ずにいた。カディスは直近では2005年に1シーズンだけ1部で戦ったが、残留には力及ばず1年で降格。以降は2部と3部を行き来している。80年代に経験した、いつかの黄金時代も遠い昔。だからたいてい、人々はマドリーやバルサ、アトレティあたりを同時に応援している。ふたつのクラブへの愛は、タイトルとは無縁の地方の小クラブ界隈にては許容される。それは裏切りですらない。彼らの心はそうやって、海を越えた向こう側、サッカー界の大舞台とつながりを保っている。もちろん、一番のクラブはカディスという思いは譲らずに。

「ほんと、1部の舞台でバルサとマドリーに勝てるなんて想像もしてなかった」

 幸せな時間は続く。少なくともあと1シーズン、彼らがバルサを気にかける時間は減るだろう。

4月21日のカディスとレアル・アマドリードのゲーム。左がカディスのMFイバン・アレホ、右がマドリーのDFミゲル・グティエレス(写真:AP/アフロ)

工夫凝らしたSNS戦略

 ピッチ外でもクラブの躍進は顕著だった。スペイン国内だけでなく、世界にアピールできるスペイン1部に所属することの意味は商業的にも大きい。スポンサー関連を統括するマーケティング部のキケは言う。

「パンデミックで非常に難しい1年でしたが、これまでのスポンサーは離れずに支援を継続してくれましたし、メインスポンサーとして大企業とも契約できました。その他のプレミア契約なども含め、マーケティング面では満足しています」

 特徴的なのは日本市場におけるクラブのSNS戦略だ。公式アカウント@Cadiz_CFJP)が関西弁で発信するというこれまでにはない斬新なアイデアを打ち出し、日本のサッカーファンの間でも話題となった。アカウントには親しみやすい言葉が元気よく並んでいる。