(英エコノミスト誌 2021年5月8日号)

金融の世界で創造的破壊が進み始めた

 テクノロジーの変化が金融を根底から揺さぶっている。

 ビットコインは無政府主義者の関心事から、多くの資産運用会社がバランス型ポートフォリオへの組み入れを主張する総額1兆ドルの資産クラスへと成長を遂げた。

 デジタル・デイトレーダーの大群がウォール街の一大勢力になった。

 米ペイパルが3億9200万人もの利用者を抱えていることは、中国のデジタル決済の巨人企業に米国が追いつきつつあることのしるしだ。

 しかし、本誌エコノミストが今週号の特集記事で解説しているように、テクノロジーと金融の境界線で最も注目されてこなかったディスラプション(創造的破壊)が最終的に最も革命的なものになるかもしれない。

 普通の人々が従来型の銀行を介さずに、中央銀行に直接預金できるようにすることを目指す、政府デジタル通貨の創設がそれだ。

 これらの「政府コイン(以下、Gコイン)」は新しい形態の貨幣だ。

 金融の機能を高めるだけでなく、個人の力を国家に移転させ、地政学的な変化をもたらし、資金配分の仕方をも変えていくだろう。

 こうした貨幣は、楽観的に、しかし謙虚に取り扱う必要がある。

花開く金融イノベーション

 10年ほど前、大手金融機関リーマン・ブラザーズの経営破綻を目の当たりにしたポール・ボルカー元米連邦準備理事会(FRB)議長は、銀行界が生み出した最後の有益なイノベーションは現金自動預払機(ATM)だったとこぼした。

 あの危機以降、業界は腕前を上げた。銀行はガタがきていた情報技術(IT)システムを最新式に改めた。

 起業家たちは「分離型金融」という実験的な世界を構築している。

 その構成要素のうち最も有名なのがビットコインで、それ以外にも多種多様なトークン(暗号資産)、データベース、程度の差こそあれ従来型の金融とつながるコンデュイット(投資ファンドなど)が登場している。

 一方、金融「プラットフォーム」企業は今や、eウォレット(電子マネー)や決済アプリの利用者を30億人以上抱えるに至っている。

 前述のペイパルに加え、中国のアント・グループ、東南アジアの配車サービス大手のグラブ、アルゼンチンのメルカド・パゴといった専業の事業者、ビザのような既存の金融サービス会社、そしてフェイスブックのように新規参入を目指すシリコンバレー企業がひしめいている。