(英エコノミスト誌 2021年4月24日号)

インドのニューデリーで新型コロナウイルス感染症により亡くなった父親を荼毘に付した少年(4月24日、写真:ロイター/アフロ)

インド政府の不注意と慢心が感染拡大を増幅させた。

 4月14日はインドにとって特別な日だった。

 ヒンズー教徒とシーク教徒は新年を迎えるために集まり、多くのイスラム教徒はラマダン(断食月)の初日を祝う宴を友人や家族などと夜遅い時間に催した。

 周期的なヒンズー教の祭典で世界最大の宗教行事に当たる「クンブ・メーラ」の今年の開催地となったハリドワールという町では、100万~300万人もの人々が押し合いへし合いしながらガンジス川で儀式の沐浴を行った。

 そしてこの日、インド全土で、新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の1日当たりの新規感染者数が初めて20万人を突破した。

 その数はその後も増え続け、わずか1週間後には31万5000人に到達。今回のパンデミックにおけるどの国のどの日の記録をも上回った。

 死者数も急増し始めており、身の毛のよだつような公式統計自体が実はかなり過小評価された値なのではないかとの疑念が広がっている。

 火葬場は、次々に運び込まれる遺体に対応するために、周囲の歩道に薪を積んで間に合わせの火葬台とするほどになっている。

「世界の薬局」になるはずが・・・

 この恐ろしい第2波は、インドのみならず世界全体にとっても大惨事だ。何もせずにウイルスを蔓延させてしまえば、危険な変異ウイルスが新たに姿を現すリスクが増すからだ。

 インドで最初に発見された厄介な変異ウイルスは「二重変異株」と呼ばれるもので、すでに米国や英国を含む複数の国でも見つかっている。

 その脅威の程度を把握しようと科学者が懸命に分析を進めるそばから、新たな変異株が次々と出てくる。

 インドの第2波の影響のなかには、もっと早くほかの国々に及ぶものもある。ワクチン供給の停滞がそれだ。

 インドは世界の薬局になることを望んでいた。だが感染者数が爆発的に増えたことから、政府はワクチン輸出の制限に転じた。

 今年1~3月期に6400万回分のワクチンを輸出していたものの、4月前半はわずか120万回分にとどまっている。