(呉 花梨:日韓通訳者・翻訳者)
文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率は2021年3月、過去最低を記録した。朴槿恵(パク・クネ)大統領が罷免に追い込まれ、それに伴う大統領選挙で20代から40代の熱狂的な支持を受けて当選した文在寅氏。2017年5月、公正と正義を語り、鳴り物入りで大統領に就任した。「文在寅派」を「ムンパ」と略す新造語も生まれるなど、若い世代に圧倒的な人気を誇り、国民から大きな期待が寄せられていた。
文在寅氏は大統領選挙の遊説で、金剛山観光や開城(ケソン)工団の再開など、北朝鮮にメリットになる政策を主張し続けた。そして大統領に当選すると、果たせるかな、北朝鮮と中国に好意的な政策が着々と進められた。
私はそれをテレビで見ながら、文在寅氏が当選したら北朝鮮寄りの政策や親中政策を採り、反米と反日につながるのではないかと危惧を抱いていた。北朝鮮は住民が深刻な貧困に苦しんでいるのにミサイルを撃ち続け、核開発を止めない。その北朝鮮を擁護する中国。韓国はその肩入れをすることになるのでは、と。
京畿(キョンギ)道議政府(ウィジョンブ)市で行われた大統領の遊説演説にも、日本人記者の取材の手伝いのために同行した。あの時の光景が今も脳裏を離れない。それほどショックを受けたのだ。文在寅候補は前方に座っている老人の手をぎゅっと握り、「基礎年金を2倍に上げてあげよう」と大きな声で約束したのだ。
「自分の当選のために国民が苦労して払っている税金を勝手にバラまく気か?」と私は心の中で毒づいた。50代以上の世代の文在寅候補に対する支持率が異様に低かったのだ。
現政権は政権初期、「増税のない福祉」と「電気料金引き上げなしの原発閉鎖」を幾度も強調した。私はその実現可能性に懐疑的だった。実現できたならすばらしい政策に違いない。だが、果たして可能なのか。私の周りにいたほとんどの人はこの公約を信じていた。それだけ文在寅政権への期待が大きく、不正腐敗とはかけ離れたクリーンな政権になると信じ切っていたのだろう。
案の定、国民の期待はやはり打ち砕かれた。文在寅大統領が法務部長官に任命した「たまねぎ男」、もとい曹国(チョ・グク)氏が引き金だった。