(宮前 耕也:SMBC日興証券 日本担当シニアエコノミスト)
2021年の春闘は、先行する製造業で結果が出揃いつつある。金属労協がとりまとめた大手企業における賃金改善(ベースアップ)の要求・回答状況をみると、今年は組合側が要求を控える動きが目立った。ベアを要求した組合の比率は、2020年は100%(56/56)であったが、今年は72%(39/54)にとどまり、2015年以来の低水準となった。コロナ禍で経営環境が悪化する中、自動車の一部や造船重機等では、組合側がベアを遠慮する動きが生じた。
だが、経営側による回答は意外にも底堅い。ベアを要求した組合のうち獲得できた比率は82%(32/39)で、例年より低いものの、2020年の79%(44/56)をやや上回った。また、組合側によるベア要求額の平均は2452円で、前年の3118円から2割強減ったにもかかわらず、経営側によるベア回答額の平均は1138円となり、前年の1060円を1割弱ながら上回った。組合側がベア要求額を引き下げる、あるいは要求自体を見送るケースが増える一方、電機等では経営側が前年並みのベアを維持する動きがみられた。コロナ禍後の業績二極化により、大企業製造業の中でも業種間もしくは企業間で賃金格差が拡大している。