(宮前 耕也:SMBC日興証券 日本担当シニアエコノミスト)
2020年度の貿易収支は1兆3000億円の黒字となった。黒字に戻ったのは3年ぶりだ。ただし、手放しでは喜べない。貿易黒字と言えば、輸出増や好景気が連想されやすいが、2020年度の輸出額は前年比▲8.4%と2年連続で減少した点に注意を要する。輸出減少の背景としては、コロナ禍で海外景気が縮小した影響や、2020年春の緊急事態宣言で生産縮小が図られた影響が挙げられる。製品別では自動車など輸送用機器、仕向け地別では米国や欧州向けを中心に輸出が減少した。
輸出額が減少したにもかかわらず、貿易黒字となったのは、輸入額が前年比▲11.6%とより大きな減少率を記録したためだ。貿易取引で海外への支払額(輸入額)が海外からの受取額(輸出額)を下回り、収支が黒字になった。
輸入減少の背景としては、原油安により輸入価格が下落した影響が挙げられるが、輸入数量も落ち込んでいることから、国内消費や工場稼働が縮小した影響も表れている。すなわち、2020年度の貿易収支は輸出入が縮小均衡に陥る中で黒字化しており、好景気を表すわけではなく、むしろ不景気の結果が表れていると言える。