(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
欧州連合(EU)は3月22日に外相会合を開催、新疆ウイグル自治区での人権問題を理由に中国に対して制裁を科すと発表した。ヨーロッパからの制裁は1989年の天安門事件以来、約30年ぶりということになる。同日付の官報によれば、制裁対象は4名の当局関係者と1団体、いずれも新疆ウイグル自治区での非人道的行為に加担したとされる。
この日、ブリンケン米国務長官が就任後初めてEUを訪問した。そのため、この日に対中制裁が発動されたことには、米国との協調関係をアピールする狙いもあったようだ。米国もまた同じ理由で中国の当局関係者2名に制裁を科していたが、新たにEUが制裁を科した2名も対象に加え、EUと足並みを揃えた。英国やカナダも同様の手段をとった。
中国は内政干渉としてEUの措置に反発、即座にEUの個人10名(欧州議員5名や各国議員3名、学者2名)と4団体(EU理事会や欧州議会の下部組織など)に制裁を科すという報復措置に打って出た。制裁対象となった個人やその家族には中国本土や香港・マカオへの入国が禁じられ、団体には中国との交流が制限されることになる。
とはいえ、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、そもそも要人を除いて双方の往来は至極限定されており、実態としてそれぞれの制裁が双方の経済に悪影響を与えることは、まずない。あくまで政治的な意味合いが強い制裁であるが、それゆえに価値観やイデオロギーの相違が色濃く反映されているため、中国の強い反発を招いている。