NTTドコモの調査によると、2020年現在、国内のスマホ利用率は10代、20代で99%以上、30代、40代、50代で90%以上、60代で80%、70代で70%となっている。ガラケーも含めれば、おそらく日本人は全世代で90%以上が携帯電話を持っていることになる。かれらもスマホを自分の意志で使っていると思っているのだろう。けれどのべつ幕無しに、食事中も運転中も、立小便をしているときも(実際に見た)手にしている人は、たぶんスマホに鼻ヅラを引き回されている。

『スマホ脳』という本が話題になっている。わたしは本を読んでいないが、著者のスウェーデン人精神科医のアンデシュ・ハンセンが出演した日本テレビの「世界一受けたい授業」(2021.3.13)を見た。ハンセン氏は、スマホ自体が悪いのではないという。スマホに依存するスマホ脳にならないように、スマホとの正しい付き合い方が重要だといっている。いくつかの方法を示していたが、まず効果あるまい。

 新しい情報や知識を求めるのは人間の本能である。スマホはこの期待に応えるものである。その意味でスマホは100%「More」報酬系の道具である。

 ハンセン氏の言葉でおもしろいと思ったのは、「かもしれない」という期待がスマホを手放せなくしている、と指摘していたことである。「いいね」が付いて(増えて)いる「かもしれない」、新しいニュースやYouTube動画やSNS投稿が「あるかもしれない」。ないなら、ないでいいが、次こそは「あるかもしれない」という期待が永遠につづくからである。ハンセン先生は、不確かな状況はドーパミンをより多く放出するといっている。

 スマホとの正しい付き合い方など、自分で気づかないかぎり、無力である。ネットへの匿名書き込みで自己アピールをしているという自己満足。「自殺したい」「家出をしたい」と過激な書き込みをして、反応を待つ期待と不安。それに返事が来ると、やはり自分が認められたようで、うれしいのだろうか。代償などの不安はどうでもいいのか。

「More」の報酬系は強力である。「Here & Now」の報酬系の「愉しさ」を自分で見つけないうちは、「More」に翻弄されるしかない。