野生動物が人間にウイルスをうつしているのではない

 2020年、スタンフォード大学の研究チームは、森林破壊が野生動物から人間へのウイルス感染の原因になっている、という論文を発表した(リンク)。「私たち人間は、野生動物が人間にウイルスをうつしているかのように考えがちだが、実際は人間側が野生動物の領域に侵入していることが原因だ」と、同大学のランビン博士は言っている。

 森林破壊を引き起こしている原因は、発展途上国の人口増加、そして世界的な食糧需要の増大が主なものである。

ブラジルのアマゾンで進む森林破壊(写真:AP/アフロ)

 人口増加に伴い森林が破壊され森林のパッチワーク化が進んだ結果、多様な野生の生態系は過密状態となった。「ソーシャルディスタンス」をとれなくなった森の中は、異種間でのウイルス感染の温床になる。多くのウイルスの宿主として知られるコウモリは、その飛び回る習性から家畜への感染リスクを高める原因になっている。

 人獣共通感染症の場合、宿主の野生動物から直接人間に感染するケースは少なく、豚などの家畜がその媒介となっていることが多い。実際、1999年以降マレーシアなど東南アジアで発生したニパウイルス感染症は、養豚業者の間で多くの感染者が見られた。

 発展途上国の劣悪な家畜の飼育状況も、ウイルス拡大の原因になっている。途上国では、豚や鶏など複数の種類の家畜を隣接した狭い区画で飼育することが珍しくない。それによって家畜にストレスが溜まり抵抗力は弱まり、過密状態がさらにウイルス増殖に拍車をかける。

 しかし、これは発展途上国だけの話ではない。例えば、日本を含むアジア諸国の採卵鶏は非常に劣悪な環境におかれている。90%以上の日本の採卵養鶏場では、「バタリーケージ」という1羽あたりB5用紙ほどの大きさしかないケージを採用しているのだ(2012年にEUでバタリーケージの使用が禁止されて以来、諸外国でもバタリーケージ廃止の動きが広がっている)。

 バタリーケージの中では鶏は翼を広げることはおろか、体の向きを変えることすらできない。また、このケージは卵を採取しやすいように手前に傾斜している。鶏は本来、砂浴びをして羽を清潔にし、止まり木に止まって寝るなどの習性をもっているが、このケージの中ではそういった鶏の自然の本能や習性が極限までに制限されているのだ。

 そのような環境で飼育されている鶏のストレスや過密状況を考えるならば、鳥インフルエンザのような感染症が発生し、被害が拡大するのは当然ではないだろうか。「ソーシャルディスタンス」が必要なのは、人間社会だけではないはずだ。