オート麦と雛豆でつくられたビーガン・ハンバーガー(写真:ロイター/アフロ)

「雨ニモマケズ・・・」で有名な宮沢賢治(1896-1933)には、実はベジタリアンとしての一面もある。賢治の死後に出版された『ビジテリアン大祭』という短編小説には、世界中から集まった「菜食信者」の祭典に、畜産組合、神学博士などが乗り込んできて菜食主義を批判し、大討論が繰り広げられる様子がコミカルに描かれている。

 賢治の時代にはまだ「ビーガン」という言葉はまだなかったが、小説の中では「ビジテリアン」(「ベジタリアン」のこと)の精神を「同情派」と「予防派」の二つに分けている。「同情派」というのは、食べられる動物に対する「かあいそう」という気持ちがその根底にあり、現代でいうならば「アニマルライツ派」に当たるだろう。一方、「予防派」は、動物性食品がリウマチやガンのリスクを高めるとの考えに基づいており、こちらは現代でいうなら「健康派」といったところか。

宮沢賢治の死後に出版された『ビジテリアン大祭

 興味深いのは、小説の中での菜食主義に対する批判や偏見が、100年近くたった現代の日本社会とほとんど変わっていないということである。そしてまた、賢治が登場人物の口を借りて展開する反駁も、今日においてもなお妥当であることに驚く。

 では、実際に小説の中に出てくるいくつかの批判と反駁を取り上げてみよう。なお、引用部分は原文の言葉をなるべく取り入れつつ、読みやすいように筆者が編集している。