欧米からスケープゴートにされやすいロシアの不幸

 先に述べた通り、ロシアはソ連の事実上の後継国家だ。ソ連崩壊以降、ロシアは「体制転換」(社会主義的な政治経済体制を資本主義的な政治経済体制に変革すること)に努めてきた。欧米各国は積極的にロシアを支援したが、それは暗黙裡にロシアが欧米的な意味で民主的な体制を受け入れ、市場経済を導入することを期待したものだった。

 ロシアではすでに普通選挙が導入されて久しく、その意味では民主化が進んだ。それに20年間も権力の座にあるプーチン大統領であるが、首相在任時(2008-2012年)はさておき、国民の審判を受けて選ばれた政治家である。とはいえ首相への転出は、当時の憲法の多選規定を迂回するためのものであり、民主的とはいえない。

 そのプーチン大統領は2020年7月、憲法改正の是非を問う国民投票を実施、77.9%の賛成を得て事実上の終身大統領に就く道を拓くことに成功した。こうした強権的なプーチン大統領の振る舞いは、欧米的な民主主義とは相容れない。欧米から見れば、ロシアは体制転換に着手してから30年を経っても民主化していないという評価になる。

 他方でロシアはこの間に市場経済化を進めたが、有力な資源企業などは政府と密接な関係を維持している。政府と企業は距離をとるべきだとする欧米的な市場経済の考え方とは、この点でも相容れない。こうしたことから欧米はロシアを異端視し、事あるごとに非難を繰り返す。そうした欧米のスタンスは、まさに中国に対するそれと酷似している。

 1月に誕生した米バイデン政権は、トランプ前政権との間で冷え込んだ欧州連合(EU)との関係改善を重視している。またバイデン大統領は、欧米流の民主主義の価値観を重視している。欧州との絆を再び深めるうえで、また米国内の支持者へアピールするうえで、ロシアは中国と同様、格好の「スケープゴート」になっている。

 確かに、ロシアでは欧米的な意味での民主主義がまだ成熟していない。しかし、それがソ連崩壊からわずか30年で根付くという考え方自体、楽観的過ぎる。またロシアは世界一の国土を誇り、実に16カ国と国境を接する多民族国家である。内外に多くの紛争を抱えるロシアを、そうした民主的な指導者が束ねることができるかは別問題だ。