あなたは翌々日からは早速、外交もスタートさせました。カナダのジャスティン・トルドー首相との電話会談、続いてメキシコのアンドレス・オブラドール大統領との電話会談を行いました。どちらの首脳も、あなたの前任者を嫌悪していましたので、あなたとはさぞかし、会話が弾んだことでしょう。
あなたは翌23日には、イギリスのボリス・ジョンソン首相との電話会談に臨み、伝統的な米英関係をさらに強化していくことで一致しました。昨年、EUという巨艦から下船するや、コロナ禍に見舞われたイギリスとしては、そして自身もコロナに感染し、あやうく命を落とすところだったジョンソン首相としては、あなたの励ましは、さぞや大きな癒しとなったことでしょう。
翌24日には、フランスのエマニュエル・マクロン大統領と電話会談を行いました。フランスは、16日から厳しい夜間外出禁止令を出しており、近く3度目のロックダウン(都市封鎖)を行うのではと囁かれています。そんな中、あなたはコロナ対策での協力、機能不全に陥っていたNATO(北大西洋条約機構)の再建なと、アメリカとEUの緊密な関係構築を約束しました。
カナダ、メキシコ、そして英仏の次はアジアの同盟国日本かと期待していましたが・・・
さすがは「癒しの大統領」です。近隣のカナダとメキシコ、大西洋を越えたイギリスとフランスとの立て続けの首脳会談は、すべて順風満帆に終わりました。さていよいよ、次はアジアの同盟国である日本の番かと思いきや、何とあなたが翌26日に電話回線をつないだのは、ベルギーとモスクワでした。
NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長と、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領です。前者とは、集団的自衛権の行使を定めた北大西洋条約第5条を確認。後者とは、2月5日に失効期限が迫った「新START」(新戦略兵器削減条約)を5年間延長することで合意しました。
新STARTは、米ロ両国に戦略核弾頭の配備数を1550発以下に、また、弾道ミサイルや戦略爆撃機などの運搬手段を800以下に削減することを義務づける条約で、期限は10年でした。それをさらに5年延ばしたのですから、これは画期的なできごとに違いありません。
しかし、ロシアの隣の極東には、あなたからの電話を、首を長くして待っている首相がいたのです。
実は、日本政府内部では、あなたが大統領に就任する少し前から、こんなことが囁かれていました。「大統領就任から、1週間経っても日米電話会談ができなければ、もはやアメリカは当てにできないということだ」。
また、こんなことも言われるようになっていました。「最重要な同盟国であるはずの日本をここまで無視するのは、日本に『お仕置き』を与えるということなのか?」。
「お仕置き」というのは、安倍晋三前首相が、あまりにトランプ前大統領と親密だったため、安倍前政権でナンバー2の官房長官を務めていた菅首相のことを、あなたが避けているのではないかと、日本側が疑心暗鬼になっていたのです。