5.日米の作戦を妨害する行動
平時でも、中露爆撃機が、国家間で国境問題が多い海域を通過すれば、周辺国を刺激するのが実態だ。
今回のような飛行が行われれば、日本、韓国および台湾は、スクランブルした戦闘機を接近させて確認し、早期警戒管制機・電子情報収集機・レーダー監視部隊が電子情報を捕捉し、情報機関電波収集部門などは収集努力を指向する。
情報収集の絶好のチャンスであるが、国家間のトラブルを生じる可能性があるので、それぞれが神経をとがらせて行動する。
台湾、朝鮮半島、尖閣有事の際に、中露の爆撃機が同様のコースで飛行を行えば、関係国は、有事の対応のほかに、中露合同飛行の活動に対応しなければならない。
有事対応に全力を傾けたいところだが、この爆撃機の行動の対応もしなければならなくなり、はっきり言って邪魔だ。
例えば、朝鮮半島有事では、米軍の朝鮮半島への介入や日本からの兵站物資の支援が、日本海から対馬海峡にかけて間接的に妨害されることになる。
また、台湾有事の際、米軍の機動打撃部隊が台湾に接近すること、特に沖縄から発進する戦闘機や情報収集の接近を間接的に妨害されることになる。
2014年7月マレーシア民航機が、ウクライナの親ロシア分離主義者に支配された地域から発射された対空ミサイルにより撃墜された。
また、2020年1月、イランが在イラク米軍基地を攻撃した数時間後に、イランがウクライナの民航機を対空ミサイルで撃墜したことがあった。
このように、紛争当事国とこの周辺空域において、他国の軍用機や民航機が飛来すれば、誤射など予想していない事態を引き起こすこともある。
中露が空軍爆撃機の他に、海軍艦艇や民間船も加入させれば、大きな妨害活動になる。
つまり、有事の際の当事国の他に、その国の同盟国の軍事力が紛争地に展開することになれば、極めて厄介なことが発生するということになる。
偵察を目的とした中露の合同飛行が行われれば、台湾有事の時に、ロシア軍が中国に米日軍の動向を提供し、朝鮮半島有事の時には、中露軍が北朝鮮に米韓日軍の動向を提供するなどの可能性が生じるのである。
たかが中露爆撃機の合同飛行だが、有事にこれらのことが、この空海域で実行された場合、軍事作戦以外の厄介な事態が生じることを認識しておくべきだろう。