対北朝鮮戦略で、バイデン政権は負からのスタートになる

 金正日総書記時代の六者協議において、北朝鮮(以後、北)の交渉戦略は、2回とも危機を演出し、「ここで交渉しなければ戦争になる」と核兵器やミサイルの開発を見せつける瀬戸際外交といわれるものであった。

 米韓日は、戦争をしたくないという思いから、これら交渉の場で、北に石油など支援物資をまんまと騙し取られ、裏で核ミサイルを作られてしまうという事態になった。

 その後、戦略的忍耐を続けるバラク・オバマ大統領の末期とドナルド・トランプ大統領が就任後、北朝鮮は核兵器やICBM(大陸間弾道ミサイル)の度重なる実験を行い、2017年末には、完成の段階に近づいた。

 これに対し、米国トランプ政権は当初、軍事的恫喝で震え上がらせ、強い経済制裁で北朝鮮経済を困窮させた。

 米朝相互に軍事的恫喝を行った後に、北朝鮮はトランプの個性を十分把握し見定め、これまでと違ったやり方で、「この人間さえ落とせば、我々の要求を得ることができる」と判断し、トランプ大統領一人に焦点を絞って、騙しの罠を仕掛けてきたとみられる。

 そして、米朝首脳会談第2回目となるベトナム・ハノイで、トランプ大統領は、もう少しで落とされるところであった。

 あの時に、北朝鮮の求めに応じて合意していれば、米国歴代大統領の中で、愚かな大統領だったと酷評されただろう。危ないところだった。

 もし、トランプ政権が2期目に入って、平壌を訪問すれば、北朝鮮の要求を呑むという最悪の結果を招くことになっていたかもしれない。

 北朝鮮が、核ミサイル開発において、交渉相手を騙し続けてきていることは、全く変わらない。

 バイデン政権には、これまでの経緯や交渉相手を読み込んで、あの手この手の交渉戦略を仕掛けてくるだろう。

 それはどのようなものになるのか、以下の5つの視点で考察してみたい。

①金正恩委員長が米朝交渉によって得たい目的・目標

②、①を達成したいためにトランプ氏をどのようにして騙そうとしたか

③北の交渉のやり方とその原点は何か

④バイデン新大統領(確定すれば)に対しては、どのような戦略でくるのか

⑤米日の対北戦略でこれから気を付けること