これは地方の小さな「弁当屋」を大手コンビニチェーンに弁当を供給する一大産業に育てた男の物語である。登場人物は仮名だが、ストーリーは事実に基づいている(毎週月曜日連載中)

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平成14~15年:55~56歳

 平成9年5月からスタートしたデザート部門は、予測通り順調に売上を伸ばしながらも、予想通り赤字を垂れ流し続けていた。

 他のカテゴリーに比べ担当エリアが広く、担当店舗数の多いデザートは、生産性を高め生産量が一定数に達すれば、間違いなく収益は上がると恭平は信じていた。

 そのためには生産性を高めるために、可能な限りの機械化と無駄のない工場レイアウトが必須条件であり、それを実現するには新工場の建設が急務になる。

 そう考えた恭平は、入社5年目の河本敦史に新工場建設の意志を告げた。

「止めてください!それでなくても赤字なのに、これ以上の設備投資をしたら、増々赤字が膨らむばかりですよ」

 河本敦史からは言下に否定されたが、恭平は言葉を続けた。

「その通りだ。このまま続けても赤字。工場を建設しても赤字。どちらにしても赤字だが、どちらが赤字解消の実現性が高いかと言えば、工場を建設した方が早く利益を出すことができる。何故なら、生産性が上がると同時に、生産キャパが上がるからだ」

「それは、その通りですが…。だとしても、まだまだ時期尚早ですよ」

「いや、今こそがチャンスだ。そして、お前こそが責任者だ」

「えっ、私が…」

「心配するな。責任は全て、俺が取る。お前はとにかく、働き易い工場を造ってくれ」

 こうして、デザート工場建設準備室が開設され、河本敦史は準備室長に就任した。