一生モノの神経細胞を掃除し続けるには

 細胞は死にます。

 たとえば、胃や腸の表面の細胞の寿命は1日程度、血液中の赤血球は3〜4カ月。骨は約10年と、かなりまちまちです。

 そして神経細胞と心筋細胞は、なんとその人が死ぬまでずっと同じ細胞が使われます。つまり、一生モノです。細胞が寿命を終えると、新しく生まれた細胞が入れ替わりますが、神経細胞は大人になると新たには生まれません(たまに例外もあります)。

 ですから、タンパク質の塊がたまって細胞が死んでしまうと、そのままです。進行したアルツハイマー病の患者さんの脳をCTスキャンで見ると隙間だらけです。神経細胞が死んで脱落してしまったのです。そのせいで記憶が失われて、認知症の症状が出ます。

 細胞がどんどん入れ替われば、オートファジーに問題が起こって細胞内の掃除がうまくいかなくても、大きな問題になりません。しかし神経細胞はそれができないので、掃除役のオートファジーにがんばってもらうしかありません。神経細胞におけるオートファジーはとても重要です。

 家の中がゴミだらけになっても、新しく引っ越せば逃げられますが、同じ家にずっと住むならいつかは掃除しないとゴミに埋もれてしまいます。人間ならゴミに埋もれたくらいでは死にませんが、神経細胞はタンパク質の塊が溜まると生死に関わります。

 神経細胞でのオートファジーの重要性を直接示す実験は、いくつもあります。

 たとえば、遺伝子を操作して、神経細胞でだけオートファジーを止めたマウスは、若い間にアルツハイマー病によく似た症状が出ました。神経細胞を調べると、やはりタンパク質の塊がたくさん溜まっていました。

 遺伝子の変異で固まりやすいタンパク質ができてしまう病気としてハンチントン病があります。この実験で使ったマウスは、そういう病気の遺伝子を持たない健康なマウスです。つまり、タンパク質に問題がなくてもオートファジーがないと塊ができてしまうということです。神経細胞では掃除がとっても大事です。

 ですので、今世界中の製薬会社がオートファジーの機能を高める薬の開発に注目しています。これといった治療法がなかったアルツハイマー病やパーキンソン病を治せる可能性があるからです。

歳をとるとオートファジーの能力が低下してしまう

 でも、不思議ですよね。オートファジーがタンパク質の塊を取り除いてくれるのならば、アルツハイマー病にもパーキンソン病にもならないはずです。それにもかかわらず、なぜこんなに多いのでしょうか。

 そのヒントになりそうなのが、オートファジーの加齢による「能力の低下」です。なぜ歳をとるとオートファジーの能力が低下するのか、それがわかれば低下を食いとめ、神経変性疾患にならないようにできるんじゃないか。これが解明できれば、医学はまた新たな一歩を踏み出せます。

 そして2019年、答えが見つかりました。