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「オートファジー」とは、細胞を「自分の力で新品にする機能」のこと。最近の研究で、さまざまな病気から細胞を守る守護者であることがわかってきた。オートファジーは、がんやアルツハイマー病、パーキンソン病、脂肪肝や心不全などいろいろな病気を治せるのではとの期待が高まっている。オートファジーが秘める可能性を、著名なオートファジー研究者である吉森保教授が解説する。

 前編では、細胞内に入り込んだウイルスなどの病原体を、オートファジーがどのように除去するかを見ていく。(JBpress)

(※)本稿は『LIFE SCIENCE 長生きせざるをえない時代の生命科学講義』(吉森保著、日経BP)より一部抜粋・再編集したものです。

大きな可能性を秘めたオートファジー

 私は大阪大学大学院生命機能研究科と医学系研究科の兼任の教授をしている吉森保といいます。専門は細胞生物学で、特に、細胞内の現象である「オートファジー」というものを研究しています。

 オートファジーは、私の師匠でもある大隅良典先生(東京工業大学栄誉教授)が2016年のノーベル生理学・医学賞に輝いたこともあり、知っている方もいるかもしれません。

 オートファジーは、大隅先生が20年以上前に事実上切り拓かれた研究分野で、私はその頃から大隅先生の元でオートファジーの研究を始め、独立後も現在に至るまでこの分野で研究を続けています。哺乳類のオートファジーの研究で、世界的にも少しは知られる存在になりました。

 私の専門ジャンルであるオートファジーは、細胞の未来――つまり、「老化を抑えること」と「寿命を長くすること」の実現に対して大きな可能性を秘めています。オートファジーは、簡単にいうと細胞の中の恒常性を保つ役割をするものです。恒常性はいつも同じ状態に保ってくれることです。

 だから、オートファジーのことがわかってくることで、病気にかかるのを防いだり、老化を緩やかにして健康な期間を長くできたりする可能性が見えてきたのです。すでに、がんや感染症、認知症などに新しい治療法が提供できるのではと期待が高まってきています。