米国で接種が始まった新型コロナワクチン(写真:UPI/アフロ)

(岩田太郎:在米ジャーナリスト)

 12月14日、米国では医療従事者など最優先対象者に、新型コロナワクチンの接種が始まった。トランプ現政権が製薬各社に突貫作業で開発させた新型コロナワクチンである。

 米国は感染者総数1660万人、死者総数30万人と世界ワースト1位、毎日の新規感染は約20万人、日ごとの死者は平均でおよそ2000人、人口100万人当たりの死者数は911人で世界第11位の惨状だ。状況の悪化が続く中、「ワクチン接種開始でトンネルの先に明かりが見えた」(バイデン次期大統領)ことは、米国民の多くに希望を持たせた。

 ワクチン投与の効果が高く、しかも重篤な副作用が少なく、配布に公平が期され、感染のスピードを落として国民の信頼を勝ち取ることができれば、コロナ禍で地に落ちたように見えた米国や民主主義の底力を世界に見せつけることになろう。

 だが、感染爆発が始まった3月以降のトランプ政権の「感染症放任主義」による失策に加え、各州の民主党首長の過剰反応的な「ともかくロックダウン政策」が引き起こした経済と社会的安定の大破壊を見れば、どちらが政権党であれ楽観が禁物であることがわかる。

 たとえコロナウイルスが突然変異を起こさず、ワクチン作戦が成功してコロナ禍が表面的に収束に向かっても、保守派の現実を直視しない態度や、リベラル派の病的なゼロリスク追求という米国政治の本質が変わるわけではない。この先4年間の民主党政権下では、特に米経済を落ち込ませ、既存の経済格差をさらに拡大させた「安全至上主義」の弊害が噴出することが予想される。

 この3回にわたる連載では、共和党に代わって連邦政府の運営を担当する民主党について、各州の民主党首長のロックダウン政策に感染者数増加や医療ひっ迫を抑え込む所期の成果があったのか、多大な経済的犠牲や社会的矛盾の深化を許容してまでリベラル派がロックダウンに固執する理由は何か、そしてコスパが極めて悪い封鎖政策が住民の信頼を失い、民主党がその内部からも批判される現状を分析する。