台北の蒋介石記念館

 台湾海峡で軍事的緊張が高まっている。

 今年8月10日、アレックス・アザー米厚生長官が台湾を訪問すると、中国軍の戦闘機が事実上の中台境界線として機能してきた台湾海峡上の中間線を越えて台湾を威嚇した。

 また、9月18日にもキース・クラック米国務次官の訪台に合わせ、中国軍が台湾海峡で軍事演習を行い、多くの戦闘機が中間線を越えた。

 8月26日には中国本土から南シナ海に向け、2発の中距離弾道ミサイルの発射訓練を実施した。

 香港紙によれば、浙江省から「東風21D」(射程1500キロ)、青海省から「東風26B」(射程4000キロ)が発射された。いずれも空母キラーと呼ばれる対艦弾道ミサイルで台湾をにらんだ米国へのシグナルと受け止められている。

 台湾危機が「難題」なのは、台湾海峡でいったん武力衡突が起これば問題は必ず国際化するからである。

 米国は米中国交樹立に際して「中華人民共和国を中国唯一の合法政府であること」を承認(recognize)するとともに、「中国はただ、一つであり、台湾は中国の一部であるという中国の立場」を認識(acknowledge)した(1978年12月16日の米中共同コミュニケ)。

 だが一方で、上述の立場は台湾問題の平和的解決が前提であって、対台湾武力行使に対抗する米国の兵力を維持することを国内法(1979年4月10日の台湾関係法)で定めている。

 事実、1995~96年の台湾海峡ミサイル危機では中国が大規模なミサイル演習で威嚇した際に、すかさず米国が空母2隻等を急派して緊張が高まった経緯がある。

 ところで、2019年1月2日、中国の習近平国家主席は、中国が台湾に平和統一を呼び掛けた1979年の「台湾同胞に告げる書」の発表40年に当たり演説し、台湾との「統一」を確実にするための選択肢として軍事力の行使を排除しないと言明した。

 また、習近平主席は就任以来、「中国の夢」を盛んに唱えている。

 そして、中華人民共和国の建国100周年の2049年までに、「中華民族の偉大なる復興」、すなわち、台湾統一を成し遂げようとしている。

 一方、台湾独立を綱領に掲げる民主進歩党の蔡英文氏は、2020年5月20日の2期目の総統就任演説で、「北京当局が『一国二制度』をもって台湾を矮小化することは受け入れない」と述べた。

 中国共産党政権が香港やマカオと同じく、「台湾は中国の一部」として台湾を中国の主権下に置くとの主張を改めて拒否した。同時に、台湾海峡の現状を変えない原則を堅持する意向を強調した。

 中国は台湾の独立阻止で武力を行使する可能性を排除していない。台湾政府が、国連加盟要請や独立の可否を問う住民投票など独立に向けた動きをすれば地域の危機を招く公算が大きい。

 筆者は、台湾海峡危機が発生した場合、米国は台湾に軍事的支援を提供するものと確信している。

(本稿は、その論拠を明らかにすることを目的としている。いかんせん学問の徒でない筆者の私見である。皆様のご指導を賜りたい)