つまり、どんなトップランカーでも、シュートが決まる確率は半分程度なのだ。
トヨタ自動車に入りたてで若いわたしはそれを受け入れることができなかった。試合でシュートを外せば落ち込み、あるときは「もう入らないんじゃないだろうか」とか「もうシュートを打ちたくない」などと思った。
前半に調子が悪いとそのまま一試合をとおして崩れてしまう。
「何本外そうがいい」の真意
そんなわたしにシャローは言った。
「何本外そうがいいんだ。10本連続で外しても、お前には10本連続で入れられる力がある。だから、打ち続けろ。下を向くな。その必要はない」
心がすっと軽くなった感覚だった。この言葉をもらって以来、シュートを外しても大きく引きずらなくなった。
前半に調子が悪くとも強いメンタルをキープできるようになった。 わたしはこの言葉を「打ち切る」と理解している。 コントロールできないものに頼るのではなく、自分自身でやれることをやり切ること。
スコアラーであるわたしにとっては、シュートを打ち切ること。
10本外そうが、20本外そうが、とにかく打つ。わたしの仕事はシュートを打つこと、そ の自覚を持つ。
だからシュートを躊躇することは、仕事を放棄するのと一緒だ。相手の脅威になれないし、そもそもわたしがコートにいる意味がなくなる。だから何があろうと「打ち切る」の だ。
30歳手前頃だろうか。「打ち切れてるな」と実感できるようになった。シャローの言葉をようやく本当の意味で実践できている感覚だ。「折茂が外して負けたんだから、しょうがない」――その「信頼」を獲得できた。
その実は、「あいつなら、打ち切ってくれる」。 大事な局面、苦しい時間、ボールを回そう。
それこそが信頼なのだと思う。 周囲からの信頼は、よりわたしに責任感を植え付けてくれたし、その責任感はさらにわたしを「打ち切らせ」た。
バスケットボールだけに限らない話である。
結果は人を判断する重要な材料だが、自分の仕事をまっとうしているかどうか。そこに ある責任感こそが「信頼」を生み、人を動かすことを肝に銘じている。(『99%が後悔でも。』より抜粋・再編集)