© 2020 「おらおらでひとりいぐも」製作委員会

(髙山 亜紀:映画ライター)

 子どもたちは巣立っていき、夫を看取った現在は大きな一軒家にたった一人。特に用事もないのに、毎朝、なんだか目が覚めてしまい、とりあえず食事を取る。時間と空間だけはたっぷりある。日がな一日、妄想を繰り広げながら、自分の半生を振り返る。

 映画『おらおらでひとりいぐも』の主人公は74歳、一人暮らしの桃子さん(田中裕子)。原作はシニア世代に「これは“私の物語”だ」と圧倒的支持を得て、芥川賞・文藝賞に輝いたベストセラー小説。手掛けた若竹千佐子は55歳で夫を亡くした後、主婦業の傍ら執筆し63歳で作家デビューした。

故郷を離れ、結婚し、子どもを育て上げ、夫に先立たれた。さて・・・

 映画を観て、原作を読み、私がまず思ったのは亡くなった母のことだ。「これは母のことではないか。母はきっとこんなことを思っていたのではないか」と親近感を覚えずにいられなかった。

 主人公の桃子さんは1964年、故郷を捨て、上京してきた。親の言いなりになんてならない。決まっていた縁談を放り出し、家に縛られない新しい生き方を求めて、東京にやってきたのだ。

 けれど、桃子さんは東京で暮らすうち、いつしか懐かしい故郷の訛りで話す周造さん(東出昌大)に魅かれていく。恋に落ちた桃子さんはやがて周造さんと結婚、幸せな家庭生活を送り、子供二人を立派に育てあげ、周造さんと最後まで添い遂げた。

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