これは地方の小さな「弁当屋」を大手コンビニチェーンに弁当を供給する一大産業に育てた男の物語である。登場人物は仮名だが、ストーリーは事実に基づいている(毎週月曜日連載中)

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平成3~4年:44~45歳

 エンゼルスの加藤食品部長が名前を挙げたプラザハムと恭平には、不穏な因縁があった。ひろしま食品がエンゼルスへの納品を開始し、直後にサンドイッチの生産を始めて以来、ハムは主要原材料だった。

 社長に就任した恭平は、大手ハム・メーカーに対して商品開発への協力を求め、各社は競うように自社製品を持ち込み、その特長と活用例を提案してくれた。

 唯一プラザハムだけは、きれいに包装された贈答用のハムを手に支店長が来社し、恭平に差し出し、エンゼルス上層部と自社のトップとの結束の固さを滔々と語り始めた。

 自慢話に辟易とした恭平は、支店長の話を遮って強い口調で告げた。

「失礼ですが支店長、私は御社とエンゼルスとの人間関係には全く興味がありません。私が知りたいは、美味しいサンドイッチを作るための情報です。私も忙しいので、次回からは原材料としてのハムを、支店長でなく担当者が持参してください」

 数日して訪れたプラザハムの課長は、一本のハムを持参して得意然として宣うた。

「これが今、我が社がサンドイッチ用として一番お奨めするハムです。先日もエンゼルスの専務にご試食いただき、好評を得ました」

「申し訳ありません。今日ご持参いただいたのは、それだけですか…」

「…」

「私は、美味しいサンドイッチを創りたいのです。しかも一種類ではなく、何種類も創りたいのです。そのために、もっと幅広い情報と、もっと具体的な提案をいただけませんか。失礼ですが他社は、ハムだけでなく、何品もの試作品を添えて商談に来られていますよ」

 爾来、プラザハムとの商談の席に、恭平は顔を出さなくなった。

 同じ頃、エンゼルスに米飯や調理パンを納入する業者で構成する日本惣菜食品協同組合(NSS)に、新たにサラダや惣菜のカテゴリーを納入する会社が参入した。

 それに伴い増員された新任理事の中に、プラザハム100%子会社のデリカプラザの社長にしてプラザハム取締役の森重英雄がいた。