これは地方の小さな「弁当屋」を大手コンビニチェーンに弁当を供給する一大産業に育てた男の物語である。登場人物は仮名だが、ストーリーは事実に基づいている(毎週月曜日連載中)

前回の記事はこちら(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62192

昭和63年:41歳

 アキレス腱を断裂してから1年6か月を経た10月中旬、初の自社工場は完成した。

 購入した330坪の土地代9900万円・・・延べ床面積550坪の工場建設費3億3300万円・・・浄化槽を含む機械設備費その他2億5800万円。

 初の自社工場は、敷地面積980坪のうち650坪を借地としたことで初期投資は抑えられ、締めて6億9000万円で完成した。

 そして、直前9月決算のひろしま食品の年間売上額は、12億円に伸長していた。

 振り返れば、信じ難い程の好意と好運とに恵まれ、やっと完成した新工場の竣工式への案内状には、恭平の想いが込められていた。

初の自社工場竣工式、案内状

 謹啓 時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、ありがたく厚くお礼申し上げます。

 お陰をもちまして私共ひろしま食品株式会社も、創業18年を迎え、私も社長就任5年を経過いたしました。創業この方、必ずしも順風満帆とは参りませず、幾多の困難もありました。その都度、皆様の温かく力強いご支援をいただき、今日に至っております。

 誠にありがとうございました。衷心より感謝申し上げます。

 さて、本年4月、広島県13番目の市として甘宮市が誕生。

 広島市の中心部からクルマで30分のベッド・タウン。木々の緑に囲まれたその一角に今、ひろしま食品株式会社本社工場が完成しました。

 田川建築設計事務所による設計と太陽建設工業によって建築された新工場は、既に周囲の景観と溶け合って開業の時期を待っております。

 エンゼルスで販売されるお弁当やサンドイッチを量産する新工場は、何よりも衛生面を重視。例えばゴミ置き場は、思い切って清潔な冷蔵庫にしました。また、生産性を徹底的に追求したレイアウトは、通路や廊下を最小限に抑え機能性を高めました。

 さらには、働く人の快適性を大切にした空調設備・・・コンピューターを駆使した最新鋭の炊飯ライン・・・当社独自の工夫を凝らした仕分けシステムなど、全てに胸膨らむ仕上りです。

 混迷する流通業界を先駆するエンゼルス。微力ながらも、そのパートナーとしての誇りと責任のもとに、私共はこの新しい街、新しい工場で「一所懸命」の覚悟です。

「人生に大切なものは『希望』と『勇気』と『サム・マネー』」

 私の大好きな、チャップリンの言葉です。

 不惑を迎えた今も、夢と希望は少年の頃と変わらず、勇気と呼ぶには思慮の足りない軽挙妄動ばかりが目立つ、未熟者が背負った身の程知らずな借財。

 ともすれば臆しがちな私ですが、大きな希望を抱き、精一杯の勇気を奮い立たせ、ビッグ・マネーを返済すべく、新たなるスタートを切ります。

 このように稚拙な私が代表を務める、ひろしま食品株式会社に、今後とも旧に倍するご支援ご指導ご愛顧をお願い申し上げます。

 つきましては、左記の通り心ばかりの披露会を催します。何かとご多用の折、誠に恐縮ではございますが、ご臨席の栄を賜りますようお願い申し上げます。

謹白