これは地方の小さな「弁当屋」を大手コンビニチェーンに弁当を供給する一大産業に育てた男の物語である。登場人物は仮名だが、ストーリーは事実に基づいている(毎週月曜日連載中)。

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昭和58~60年:36歳~38歳

 NSS(日本惣菜食品協同組合)理事会での審議を終え、エンゼルスの役員が退席した後、理事である各社の社長の本音が聴けた。

 その大半がエンゼルスに対する愚痴だったが、時に矛先が恭平に向かうこともあった。

「本川君、あんたの処の弁当は良く売れているらしいが、原価を掛け過ぎじゃないのか。原価を掛ければ、売れるのは当たり前だ。原価を抑えて、売れる商品を開発するのが本当の経営だぞ」

「はい。でも、売れたら儲かる弁当は、間違いなく売れませんよ。儲けは別にして、先ず売れる弁当を作って、売れてから、どうすれば利益が出るか、考えるようにしています」

「そりゃ、経営じゃない。単なる自己満足。エンゼルスへのご機嫌取りに過ぎない」

「広島では、まだまだエンゼルスは新参者なんです。今は、お店の好感度を上げることを最優先に考え、エンゼルスのファンを一人でも増やしたいんです」

「ほぉ、成程。ところで本川君、あんたはどれくらいの役員賞与を取っているんだ」

「恥ずかしい限りですが、社員と殆ど変りません」

「そりゃ、駄目だ。そんなことじゃ、いざと言う時、会社を持ち堪えられんぞ」

「仰る通りです。その点に関しては、骨身に沁みて経験しています。社長は、どのくらいの額が適当だとお考えですか?」

「そうだな、最低でも社員の平均給与の10倍ってところかな」

「10倍!」

「驚くことはない。社員10人が束になっても敵わないような、仕事をすれば良いんだよ」

「はぁ、そうですか…」