一躍大ヒット、異端が育てる安心野菜

(熊本県・果実堂)

2009.02.25(Wed)鶴岡 弘之

 話を受けた時に、最初は「農業なんてできるわけがない」と思った。しかし井出社長をはじめ、研究者たちの心の底には、「人が作った農作物を分析するだけではなく、そろそろ自分たち自身で農業をやってみたい」という気持ちが芽生えていた。

 実は、それまで農作物の分析、研究を進めるうちに、日本の農業が抱える様々な問題が見えてきていた。

 例えば、国産野菜は中国産野菜と比べて安全だと言われる。だが実際は、農薬や化学肥料が必要以上に使われていたり、トレーサビリティ(履歴管理)が不十分で、安全性を保証できないケースが多々ある。

 また、農業就業者が高齢化し、就業人口がどんどん減っていることも問題だ。老夫婦が営む零細農家が多く、なかなか人を雇用することができない。また、零細ゆえ効率化が進まず、収益を向上させられない。井出社長は、自分たちが企業として農業に乗り出すことが、そうした問題を解決する一助になるのではないかと考えた。

ビタミン、ミネラルを豊富に含むベビーリーフ

 栽培するのが「ベビーリーフ」ということも大きな魅力に映った。ベビーリーフとは、発芽して10~30日以内の野菜の幼葉のこと。成長して大きくなった葉っぱよりも、ビタミンやミネラルを豊富に含んでいる。農薬や化学肥料を使わない有機栽培で育てると、さらに栄養価は高くなるという。

 「やってみよう」「やるなら有機だ。栄養があって徹底的に安全なベビーリーフを作ろう」。井出社長と研究員たちは盛り上がった。こうして果実堂は農業の世界に足を踏み入れることになった。

大手スーパーとの商談で一気に軌道に

 冒頭で触れたように、いざ始めてみると苦労の連続だった。だが地元農家の助けも得ながら、栽培はなんとか軌道に乗った。そして1年ほど経った時に、スーパーマーケットチェーンのイオン九州やマックスバリュ九州との間で大商いが成立。これで、ビジネスは一気に軌道に乗った。

 両スーパーチェーンは、果実堂の安全性向上への取り組みを高く認め、九州の全店舗でベビーリーフを販売してくれることになったのだ。

 果実堂は創業時から「安全」なベビーリーフを消費者に提供することを大きな使命として掲げていた。その背景には、井出社長が医薬学者である父親から言われた言葉がある。それは次のようなものだ。「熊本県で発生した水俣病は多くの人を苦しめた。だからこそ熊本は日本一安全な野菜を消費者に提供する義務がある」

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