必ずしも健康と言えないバイデン候補(写真:ロイター/アフロ)

トランプ氏が何よりも恐れる健康不安説

 高齢男性で肥満気味(身長191cm、体重111kg)と、新型コロナウイルスの重症化や死亡のリスクが有意に高くなるグループに属する米国のドナルド・トランプ大統領(74)が「ついに」感染し、首都ワシントン近郊のウォルター・リード米軍医療センターに入院した。ひとつ間違えば重症化や死亡に至る可能性も完全に否定できないだけに、懸念が高まる。

 週末に血中酸素飽和濃度が少なくとも2回にわたり低下し、一般的に重症患者に処方されるステロイド抗炎症薬を試すなど、発表される容体よりも実際の病状は深刻なのではないかとする見解も根強い。だが、大統領はヘリコプターに乗り込む際に記者団の前で確かな歩調を見せたり、クルマの中から「元気そうな姿」を見せるなど、職務遂行懸念の打ち消しに躍起である。

 たとえホワイトハウスや医師団の発表どおりに軽症であっても、疲労感や発熱による倦怠は大変だろうから、パワーを振り絞って健康を演出する気力と底力は脱帽ものである。もし順調に回復すれば、「高齢であるのに超人級の気力と体力」だと称えられ、11月3日の大統領選挙で有利になるかもしれない。

 しかし裏を返せば、トランプ大統領の「熱演」は、自身の健康に対する世論の懸念で選挙に敗北することを何より恐れていることを物語るエピソードだ。トランプ氏が陽性反応について、側近に「誰にも言うな」と口止めしたという米ウォールストリート・ジャーナルの報道には真実味がある。

 なぜなら大統領選はこの先4年間に対する一種の「先行投資」であるため、どれだけ有権者が好む候補であっても、「肺のダメージやコロナ後遺症など健康上の理由で、仕事が今までのようにできなくなる」と国民の目に映れば、票を大量に失う可能性があるからだ。

 ひとたびホワイトハウスを追い出されれば与党となった民主党が、トランプ氏の在任中のあらゆる不正や腐敗の追及を始めることは必至であり、そうした事態を避けるためにもトランプ大統領は、ここで負けるわけにはいかない。超人的なパフォーマンスは、案外そのような動機から出ているのかもしれない。

 こうした中、市場は株高で「トランプ回復」を織り込み始めたが、大統領の状況はまだ予断を許さない。折しも世界的に著名なデザイナーであった高田賢三氏(81)がコロナ感染で亡くなり、ニュースアプリのNews Breakでは多くの米国人のコメントがついている。トランプ氏の感染と「高齢男性」という共通項があり、より多くの注目を集めたようだ。