9月からの新学期に100%のリモート授業を予定していた米ハーバード大学(写真:AP/アフロ)

(岩田 太郎:在米ジャーナリスト)

110万人の留学生は米大学の「金づる」

 米移民税関捜査局(ICE)は米国内の大学について、来る秋学期のすべての授業が新型コロナウイルスの感染拡大防止を理由にオンラインで実施される場合、そのような教育機関に在籍する留学生に、職業研修生向けのM-1ビザと学生向けのF-1ビザを発給しないと、7月6日に発表した。3月から特例として、オンラインのみでクラスを受講する学生に認めてきた滞在許可は取り消される。

 私立名門のハーバード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)やプリンストン大学、さらにはラトガーズ大学、南カリフォルニア大学をはじめ、新学期に100%のリモート授業を予定していた教育機関は大規模な対面授業を再開しない限り、重要な収入源である海外からの在学生の在留資格が失われ、強制送還の対象になる。彼らは帰国、あるいは対面授業がある大学への転学・編入を迫られるのだ。8月から9月の新学期を間近に控えて、とても現実的とは言えない。
 
 これらの大学に加え、対面式とオンラインを組み合わせたハイブリッド型授業を予定していた大学に対しても、「減免のない高い学費を払ってくれることが普通の留学生が受講できるオンラインのクラスは、コロナ危機以前からの基準である一学期3単位に限られる。残りはすべて対面クラスでなければならない。留学生を失いたくなければ、全学規模で対面授業を増やせ」と強く迫る異例の政策だ。

 およそ110万人の留学生たちは米国の大学生の5.5%を占め、410億ドル(約4兆3735億円)の収入と45万人分の雇用を米大学にもたらす「金づる」なので、大学側はトランプ政権の脅しを無視できない。

 ICEの通告は大学側にとり、事前協議がない寝耳に水であったが、大学のフル規模再開を秋口の経済再始動の呼び水とし、11月の大統領選挙に向けて米国民に成果をアピールしたい米トランプ政権の不退転の意向を反映している。

 だがその裏には、大学生・保護者有権者へのアピール、中国人の学生を主なターゲットに定めた「排華による米中対立のエスカレーション」、さらにはトランプ大統領など保守派が「リベラルの巣窟」とみなす高等教育機関の弱体化など、さまざまな隠された狙いがちらつく。それらの理由を分析し、トランプ政権の真意に迫る。