それは、長らく必要性が叫ばれていながら、遅々として進んでこなかった「地銀再編劇」開幕のベルだった。まだ官房長官だった菅義偉氏が9月2日、自民党総裁選の出馬会見で銀行再編についてこう触れたのだ。
「地方の銀行は将来的には数が多すぎる。再編は一つの選択肢だ」
地銀再編を促す独禁法特例法
これまで金融行政において菅氏の影響力が語られることはあまりなかったので意外に受け止めた人もいるかもしれないが、実は菅氏は以前から地銀再編論者なのである。今年4月、ふくおかフィナンシャルグループと十八銀行とが経営統合したが、この案件は地方金融機関の再編を進めたい金融庁と、私的独占を排除したい公正取引委員会との間で折り合いがつかず、膠着状態にあった。そこで調整に動いたのが官房長官だった菅氏だ。結局、双方が自分たちの保有している債権を他の金融機関に譲渡し市場シェアを下げることで、統合が認められることになったのである。
地銀の再編を阻む要因の一つになっていたのが独禁法の存在だった。各地域でのシェアが高くなりすぎる経営統合は公取委が認めてこなかったのだ。そこで政府は、地域のバス会社と金融機関を対象にした独禁法の特例法を制定した。施行はこの11月27日から。10年間の時限立法だ。この特例法制定にも菅氏は深く関わっていた。
つまり11月からはこの特例法により、独禁法の制限がかなり緩和される。地銀再編の環境整備が出来上がったのだ。
そのタイミングを見計らったかのような菅氏の発言によって、地銀と第二地銀の株価は軒並み急騰した。かくして、菅内閣に期待される「スガノミクス」において、地銀再編は最重要政策になると受け止められるようになった。
第4のメガバンク構想
俄然現実味を帯びてきた大規模な地銀再編劇にほくそ笑んでいる経済人もいる。SBIホールディングス(以下=SBIH)を率いる北尾吉孝代表取締役社長CEOはその筆頭だろう。
昨年9月、SBIHは地方再生、創生を目的に「第4のメガバンク構想」を発表、島根銀行や福島銀行へ出資、資本提携していた。その後も、筑邦銀行(福岡県久留米市)や清水銀行(静岡県静岡市)、新生銀行(東京都)、大東銀行(福島県郡山市)と矢継ぎ早に出資している。
また、SBIHはメガバンクの一角である三井住友フィナンシャルグループとも資本提携に踏み切り、銀行業界で版図拡大を進めている。