8月28日に辞任を表明した安倍晋三首相。憲政史上最長となる在任期間に安倍首相は何を残したのか。「黒田バズーカ」による超低金利政策で爆騰した不動産市場の行方をマンション市場に精通したスタイルアクトの沖有人社長が分析する。
(沖有人:スタイルアクト代表取締役/不動産コンサルタント)
安倍政権誕生前に上がり始めた株価と不動産
アベノミクスは不動産市場に追い風を吹かせた。
安倍首相が就任した2012年12月以降、都市圏の不動産価格は高騰し、家賃は上がった。この結果を生んだ最大の要因はアベノミクスで間違いない。もっとも、2019年10月の消費税改定を契機に景気後退期に突入。その後のコロナショックの到来で経済は大幅なマイナス成長が確定した。これまでの因果関係を明らかにするとともに、今後の不動産市場の行方を占ってみたい。
アベノミクスは2013年を起算年とする。2008年9月のリーマンショック後、日本経済には明らかに不況が到来していた。民主党政権が発足したのはその1年後の2009年9月だった。ここからの3年は景気回復基調が何度も腰折れするほど、経済政策は低調を極めた。
ところが、2012年11月14日の国会の党首討論で解散総選挙が決定的になり、この翌日から株価と不動産は値上がりを始める。安倍政権誕生は決まったも同然だったからだ。
アベノミクスは「三本の矢」で経済成長を目指すものだ。「三本の矢」とは、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略である。これに加えて、2013年9月に東京五輪の開催が決定する。4本目の矢として、2020年まで経済は安泰であるかのようにはやし立てる論調になり、建築単価は大幅に上昇していくことになる。