急速に進む東京圏の高齢化。その解決策の1つとして挙げられているのが、高齢者の「地方移住」だ。この観点から、本連載ではこれまで国内・海外の高齢者移住の歴史や動向を取り上げてきた。

 では今後、東京圏からの移住が促進されることはあり得るのだろうか。「近年、日本ではアクティブな高齢者を対象にしたリタイアメントコミュニティ(RC)が商業的に成功するなど、高齢者移住の選択肢は増えており、東京圏からの移住が活発化する可能性はあります」と話すのは、國學院大學経済学部の田原裕子教授。高齢者移住の受け皿は広がっており、「コロナ禍で動きは加速するかもしれません」と話す。

 高齢者移住を取り上げてきた本連載、最終回は日本での高齢者移住の今後を考える。

【前回の記事】米国で60年続く住民運営の高齢者コミュニティとは(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61466

國學院大學経済学部教授の田原裕子氏。博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。職歴:東京大学大学院総合文化研究科・教養学部助手、國學院大學助教授を経て現在に至る。少子高齢化や都市再生など、現代社会が抱える様々な問題を“街のコミュニティ”を通じて考察する専門家。

「スマートコミュニティ稲毛」に見る、RCへの移住という選択

――前回までは、高齢者移住が盛んなイギリス・アメリカの動きを中心に伺いました。これらを踏まえ、今後の日本における高齢者移住を考えていきたいと思います。

田原裕子氏(以下、敬称略) わかりました。移住を考える上では、まず大切なことがあります。それは、移住の大きな特徴は「どの地域にも可能性があること」です。

 移住の場合、何が魅力となり、移住の動機を生むかは人により変わります。「地域おこしを手伝いたい」とその土地を選ぶ人もいれば、なかには「何も無いからこそ、この地域が好き」という人もいるでしょう。地域にとっては、移住者を呼び込む引き出しは幅広くあるのです。移住はその地域がさまざまな方向性で工夫すれば、その地域なりの魅力を生み出せるということでもあります。これは地域創生、地域おこしを考えたときの移住の特徴でしょう。

――確かに、移住は地域の魅力が多様化しそうです。

田原 その上で、これまでの高齢者移住を見ると、日本では地方に飛び込んでいく移住が多かったと言えます。地方の集落の空き家を買ったり借りたりして移り住み、地域のコミュニティに入る形です。しかし、最近は日本でもRCが増えており、そういった高齢移住者向けに開発された施設に入る移住も多くなっています。実際、日本のRCでも、民間主導でビジネス的に成功している事例が出ているのです。