東京圏の高齢化が急速に進む中、高齢者の「移住」が解決策として挙げられている。一方、海外に目を向けると、高齢者移住は日本より進んでおり、特にアメリカでは高齢層が集まる居住区、リタイアメント・コミュニティ(RC)が発達しているという。
「アメリカでは20世紀後半にRCが活発に作られ、2000年以降でも、全米で200以上のRCが存在していると考えられます。重要なのは、国や行政の政策ではなく、民間企業がビジネスとして行うRCが多いこと。商業的に成功したことから、全米各地に増えていきました」
このように話すのは、國學院大學経済学部の田原裕子教授。同氏によれば、アメリカのRCの代表格として挙げられるのが、1959年に開発、翌1960年から分譲が開始された「サンシティ」だという。その詳細を聞いた。
【前回の記事】高齢者の移住は「工業化」から生まれた(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61350)
行政ではない自治区としてのRC、住民による「自警団」も
――アメリカではRCが数多くあるとのことですが、どのように出来ていったのでしょうか。
田原裕子氏(以下、敬称略) 前回触れた通り、アメリカでは1940年代後半から高齢者やリタイア層の移住が顕著になりました。その動きを捕まえて、1950年代末には民間業者のビジネスとしてRCが作られました。イギリスでは自然発生的なRCが多いのに対し、アメリカは商業的かつ計画的に建設されたRCがリタイア層の移住を牽引したことが特徴です。
数あるRCの中でも成功例として挙げられるのが、アリゾナ州フェニックス近郊の「サンシティ」です。デル・ウェップ社が1959年に開発したもので、この成功を機に、同社はその後サンシティの名を冠したRCを各地に作っていきます。今回は、その“元祖”となるサンシティを紹介します。
――どのようなRCなのでしょうか。
田原 全米初の計画的RCで、1960年の販売開始とともに好調な売れ行きとなり、1978年まで区画を販売しました。その時点で、総面積8900エーカー(1エーカーあたり4046.9㎡)、総戸数2万5千戸の大コミュニティに。20年以上経った2003年時点でも、居住者数は3万5759人を数えます。この数字は通年居住者に限ったものであり、そのほかに夏の暑い時期を避けて暮らす「スノーバード」も約7000人います。合わせると約4万2500人が居住していることになります。