高齢化の先進国であり、対策を求められてきた日本。これまでは、多くが「地方」の課題として取り上げられてきたが、近年は東京圏の高齢化が深刻になっており、今後大きな問題になると指摘する声が増えている。
高齢者の人口移動や高齢社会を研究する國學院大學経済学部の田原裕子教授も、その一人。若者が多く、高齢化には困らない印象を抱きがちな東京圏だが、対策は急務であり、ひとつの方策として、高齢者の「東京圏から地方への移住」をあげる。
本連載では、高齢化対策としての移住に注目。第1回となる今回は、東京圏の高齢化の実情を取り上げる。
約40年前の人口移動により、2020年に問題が表面化
――東京圏の高齢化が顕著になっているとのことですが、具体的にどういった状況なのでしょうか。
田原裕子氏(以下、敬称略) 一都三県(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)からなる東京圏は、すでに急速な高齢化が始まっており、これから深刻な問題が表面化すると考えられています。
それを示したのが、2015年に発表された「東京圏高齢化危機回避戦略」でした。日本創成会議によるもので、東京圏が抱える高齢化の厳しい未来を予測しています。
資料によると、東京圏の高齢化率(65歳以上の高齢者比率)は、2000年時点で14.4%。全国平均が17.3%に対し、約3ポイント低い数値でした。2010年においても、20.5%(全国平均23.0%)となっており、地方よりも高齢化の度合いは低い状況だったと言えます。
しかし、東京圏の人口動態から考えて、2020年以降は高齢化率が26%を超えると指摘しています。また、2015年からの10年間で、後期高齢者が175万人増加すると予測。これは、同じ10年間で増加が見込まれる全国の高齢者572万人のうち、およそ3分の1の規模となります。
――東京圏は、まさに今年あたりから高齢者が一気に増加するということですね。5年前の予測ですが、状況は変わっていないのでしょうか。そしてなぜ、東京圏は急速な高齢化を迎えるのでしょうか。
田原 はい。状況は大きく変わっておらず、今まさに表面化するタイミングだと考えられます。
東京圏の高齢化が急激に進む大きな要因は、戦後の高度経済成長期に起こった人口移動です。1955年〜1973年の間に、非大都市圏から大都市圏へ、大量の人口が移動しました。
特に多いのが、団塊の世代(1947年〜1949年生まれ)です。この世代が各年代でどの地域に住んでいたか、居住分布を分析していくと、団塊世代が10〜14歳の期間は、7割近くが非大都市圏に居住。しかし、高度経済成長期の中で分布が逆転し、大都市圏の居住者が増えます。
その後、一部は非大都市圏に戻りますが、団塊世代の5、6割は今も大都市圏に居住し続けています。象徴的な事象が“帰省ラッシュ”で、多くの人が生まれ故郷の地方から東京圏に移り住んだことを示しています。まさに上述の人口移動がもたらした現象と言えます。
団塊の世代、あるいはそれに近い世代は「一定期間で大量に東京圏へ移り住んだ世代」であり、当然、同じタイミングで一斉に高齢化します。その境目がまさに今なのです。