3月13日、スカルノハッタ国際空港のコロナウイルス対策を視察したジョコ・ウィドド大統領(写真:Abaca/アフロ)

(PanAsiaNews:大塚 智彦)

 インドネシアに拠点を置くシンクタンク「紛争政策分析研究所(IPAC)」が注目すべき報告書を発表した。それによると、独立を目指した武装組織による抵抗運動が続く同国最東端のパプア地方で、同地方へのコロナウイルス感染の拡大阻止対策を早期に講じようとした現地地方政府主導による「ロックダウン(都市封鎖)」の実施に、中央政府や治安当局が意図的に反対していた可能性があるというのだ。

 報告書の指摘はそれだけではない。パプア人のコロナ感染防止に積極的に取り組まなかったのは意図的な不作為だったのではないか、とまで分析している。こうした不作為が、パプア地方での感染拡大の一因となっているのだが、それは政府や治安当局による「コロナ禍で独立運動を弱体化させようとの狙いに基づくとも考えられる」としている。

 事実とすれば、独立運動封じ込めのためにコロナ禍を「利用」したことになる。もちろん政府や治安当局は全面的に否定するだろうが、人権上の問題へと発展する可能性がある。

 そうした中、7月14日には政府が突然、パプア地方への宗教・教育政策での融和プログラムを発表した。パプア地方の教育水準の引き上げを、宗教者と教育関係者の協議を通じて振興するというものだ。

 これは現地では、パプアへの締め付けのためにムチを振るう中で、時折放り投げるアメのたぐいとも見られている。こうしたアメとムチを使い分けるパプア政策は、結局のところ「独立運動は決して許さない」という政府のスタンスを強固にするもので、現地パプア人にとっては「差別意識の裏返し」としか映っていない。

素早いコロナ対策に待ったかけた政府

 パプア地方はインドネシアの東端、ニューギニア島の西半分を占めるパプア州と西パプア州で構成される地域で、インドネシアの中では辺境の地となる。メラネシア系キリスト教徒が多数を占め、なおかつ長年独立を目指す武装組織「自由パプア運動(OPM)」とその分派による小規模で地道な抵抗運動が続いていることなどから、インドネシアでも最も経済開発、教育水準、インフラ整備などが遅れた地域とされている。ただ、豊富な地下資源が存在することから、インドネシア政府は治安を阻害するOPMなどの独立運動には強権での対処を続けている。

 地理的にはインドネシアの他の多くの州と同じく完全な独立した島であることから複数の空港、港湾でコントロールすれば、人やモノの出入りだけでなく、コロナのような感染症、ウイルスの流入阻止も比較的容易である。

 このためインドネシアでコロナ感染者が最初に確認された3月2日以降、パプア地方ではウイルス流入を水際で阻止すべく、パプア州知事などが中心となって動きだした。

 3月24日には州内の各県・郡などのトップとの協議で全ての外国人の入境禁止、パプア人・非パプア人全ての自宅待機・集会自粛、各地方事務所にコロナ対策チーム設置、医療関係者を除きすべての人の空路・海路での入境禁止、生活必需業務に限り午前6時から午後2時までの営業許可などを打ち出し、事実上の「ロックダウン(都市封鎖)」を打ち出した。