2018年2月、韓国で開かれた平昌オリンピックの女子アイスホッケー競技で、南北合同チームの試合観戦に訪れたときの金与正氏(写真:AP/アフロ)

(朴 承珉:在ソウルジャーナリスト)

「『愛の不時着』は、共和国を謀略し、共和国の地位を低下させる連続劇(ドラマ)だ」

 これは北朝鮮のNo2、金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長が幹部たちに向かって話した言葉だそうだ。韓国で同ドラマの放映が終わってから1カ月足らずだが、北朝鮮消息筋によれば、金第1副部長は、北朝鮮内部でこのように怒っていたという。

 北朝鮮は与正氏の激しい「言葉の爆弾」で南北共同連絡事務所の爆破を予告した3日後となる6月16日、実際のその言葉を実行に移し、韓国に大きな衝撃を与えた。その後も非武装地帯への部隊展開などをチラつかせ韓国にプレッシャーを与えたが、金正恩(キム・ジョンウン)委員長は一転して軍事行動留保を指示。これによってとりあえず南北の緊張は沈静化したものの、事態が完全に収束されたとはまだ言えない。

 この時に粗暴な言葉を駆使した与正氏が、最近、日本でも人気の韓流ドラマ『愛の不時着』を見たのだという。与正氏の乱暴な口撃とドラマ愛の不時着のイメージがなんとなく不釣り合いな感じがするが、どうやら『愛の不時着』の影響力は、北朝鮮でも無視できないほどになっているらしい。

韓国、日本、そして北朝鮮でも人気沸騰

『愛の不時着』は、ある日パラグライダーで飛行中に嵐に巻き込まれ、北朝鮮に不時着した財閥相続女ユン・セリと、彼女を隠し、愛することになる北朝鮮の特級将校リ・ジョンヒョクの極秘ラブストーリーを描いたドラマだ。韓国のtvNで2019年12月14日から2020年02月16日まで放送された16回のドラマだ。最高視聴率は21.7%(ニールセンコリア)という大人気ドラマである。日本でもNetflixで配信され、人気を博しているのでご存じの方も多いだろう。

『愛の不時着』(Netflixより)

 人気は、北朝鮮でも相当なものだという。

 最近、北朝鮮の若者の間では、「サブル見た?」という言葉が流行っているという。北朝鮮の市民が韓国ドラマや映画を密かに見ることは罪になる。そのため、取り締まりの警察や保衛員などが聞いてもわからないように、「サランウィ・ブルシチャク(愛の不時着)を見たか?」という言葉の一番前の「サ」と「ブル」に略して使っているのだという。