これと同じように、「防弾少年団(BTS)のミュージックビデオを見たか?」という言葉は、「鉄甲帽をかぶってみたか」と尋ねるという。防弾というイメージから鉄甲帽という単語が使っているようだ。
北朝鮮は、市民が目にする労働新聞や朝鮮中央テレビなどすべてのメディアで、海外のニュースは一切流さない。サッカー国家代表チームが外国で試合するときの中継放送でも、映すのは選手たちが走るグラウンドと北朝鮮チームの応援団の姿だけ。他を映してしまうと、北朝鮮市民と自由で豊かな外国人の姿をどうしても比べてしまうからだ。
そのため、北朝鮮市民は、外部世界の消息に常に渇望している。だから、厳しいメディアの統制の中で生活する北朝鮮市民は、特に韓国のドラマや映画、K-popに熱狂しているという。中朝国境から密かに入ってくる韓国のDVDやCDなどを購入して親しい人たちの間で回して観ているのだ。
もちろん見つかれば取り締まりの対象だ。摘発されれば強制収容所行きなど厳しい処罰を受ける。
北朝鮮の暗部が描かれたことに激怒
そのような危険を冒しながらも北朝鮮市民が韓流に熱狂するのは、カルチャーショックがそれほど強いことを物語っている。『愛の不時着』にはもちろん韓国の自由な生活、資本主義的生活の場面もふんだんに登場する。そこに北朝鮮の市民が強い憧れを抱くことは、当局にとって許せないことだ。だがそれ以上に北朝鮮当局にとって見過ごせないのは、このドラマの中で、北の保衛部が密輸や麻薬取引に手を染めている、北には拷問があるという“実態”が描かれていることらしい。だからこそ、北朝鮮当局は、このドラマが広く国民の目に触れるようなことになる事態を極度に恐れているのだ。金与正氏の冒頭の言葉も、その表れと言えるだろう。