今回明らかになったICWとTIIの報告書でもこの贈収賄事件について「最も重要な容疑者らの逮捕すらできていない状態」として、このPDIP政治家を含めた重要容疑者が現在に至るまで逮捕に至っていない事態を糾弾している。

 KPKにとっては、このKPUコミッショナーとPDIPの政治家による贈収賄事件は「弱体化という批判を覆すもの」になるかとの期待もあったが、結局は予想通りの尻切れトンボに終わった。期待した国民にとっては全くの不完全燃焼と言える。

(参考記事)インドネシア、牙抜かれた捜査機関が与党に逆襲
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59078

 KPUの汚職事件を含めてこの半年で着手した22件のうち16件は進展がなく、逮捕者を伴う結果を出したのはたった2件で、KPU事件を担当していたKPKの捜査官に至っては突然解任されるといった不透明な人事もあった。報告書はこの件も厳しく批判している。

 5月に着手したジャカルタのナショナル大学職員による教育文化省役人への贈収賄事件は警察への通報が早すぎたために最終的に立件できず、大物を逮捕できずに失敗したとされている。報告書はこれも俎上に載せ、「KPKによる汚職事件の摘発は汚職の抑止効果や再発防止という効果があるにもかかわらず、その役目を果たしていない」とも指摘している。

 こうした批判に対し、新体制とともに交代したKPKの新報道官アリ・フィクリ氏は「KPKへの数々の批判や叱咤激励には感謝している。しかし今年も汚職捜査には懸命に取り組んでいるが困難も多い」との見解を地元マスコミに示し、理解を求めている。

委員長自身がKPK弱体化の元凶

 一方、報告書はKPKについてかなり手厳しい。現状については「最も暗い時代に入っている」「乏しい成果で国民の信頼を失った」「KPKを巡る有り方論争噴出」などとの表現でKPKが組織的に弱体化している実態を指摘し、その原因についても「新体制の弱体化は国会の改正法も一因だがフィルリ委員長の選出もその一環である」として、警察幹部出身ながら現職中に汚職容疑者と不要な接触するなど過去に問題を抱えた人物のKPKトップへの抜擢そのものが組織の弱体化を狙ったものとの厳しい見方を明らかにしている。

 その渦中のフィルリ委員長は「汚職犯罪抑止にKPKの果たす役割の重要性は認識している」と建て前論に終始するだけで、何ら具体的なことを語ろうとしていない。

 それどころか25日にはKPK監視評議会から「プライベートでのヘリコプター使用による私的旅行」に関して、「倫理的問題がある可能性がある」と事情聴取を受ける事態になっていると地元紙が報じた。

 この件に関してフィルリ委員長はコメントを控えているが、KPKのトップによる1時間で約1400ドルかかるとされるヘリコプターのチャーターは「汚職摘発機関のトップとして相応しくない」と批判を浴びる事態になっているのだ。

 警察幹部出身で警察や国軍といった治安組織や政治家との太い人脈が自慢のフィルリ委員長に、かつて汚職犯罪に決然とした姿勢で臨み、社会的立場や権力に関係なく容疑者を次々と逮捕していったKPKの姿勢はもはや望むべくもない、ということに国民もようやく気が付いたと言えよう。

 今やインドネシアにおいて、KPKは国民の支持と信頼を失いつつあり、警察や検察は依然として賄賂や捏造、誤認逮捕、人権侵害などで批判を浴びている。“最強の捜査機関”と言えるのは今や「国家麻薬取締局(BNN)」だけになってしまった。

 BNNは相変わらず政治家、ビジネスマン、芸能人そして在インドネシア外国人らを麻薬犯罪容疑で次々と逮捕するなど確実にその実績を上げて国民の信頼と期待に十分応えている。

 続々と逮捕されて、捜査機関捜査官らと一緒に記者会見に立ち会わされる麻薬犯罪容疑者らは、一様に報道陣のカメラから視線や顔を逸らして世間の注目から逃れようとする。

 その一方で、多額の贈収賄事件で容疑者とされながら逃げ隠れしている政治家、事件として着手されながらも立件を逃れて日常生活をなんなく続けている実業家や官僚、そして汚職事件摘発の実績を上げることよりプライベートヘリで私的旅行をして「問題なし」としているKPK委員長が社会の日の当たる場所を堂々と跋扈している。もはやインドネシアはかつての「汚職大国」へと逆戻りし始めていると言える。