自治体間情報格差で「スーパーシティ」に暗雲

 2020年5月27日、「スーパーシティ」を整備するための改正国家戦略特区法が参議院本会議で可決された。「スーパーシティ」は、住民や企業のデータを活用しながら、自動車の自動運転やドローンを使った配送、遠隔医療など最先端技術の実証実験を街全体で行うことを予定している。例えば、MaaS(Mobility as a Service)と呼ばれるような移動の統合による効率的な社会の実現が試みられる。しかし、ある「先進的」な都市において、MaaSが実現されたとしても、果たしてそれはどの程度の意味を持つものなのだろうか。

 スウェーデンのチャルマース大学は、MaaSは4段階の統合によって進められるとしている。まず情報の統合、次に予約・決済の統合、3番目にサービス提供の統合、最後に政策の統合である。政策の統合が図られていない自治体間で移動の完全な統合はできない。情報の統合ができない自治体間ではMaaSを始めることすらおぼつかない。自治体によって条例やその解釈権限が異なることを前提にすると、MaaSでつながることのできる自治体とそうでない自治体が生まれてしまう恐れがある。

 これまで、自治体にたまたまIT技術に秀でた職員がいたり、地元に有力な企業があることでもたらされる事例が、自治体の成功例として取り上げられることも多かった。しかし、こういった成功を期待し続けることには無理がある。他の自治体と異なることをアピールすることが必要だとしても、自治体ごとの独自性が異なる情報基盤を持つことまで意味するとすれば、自治体間に情報基盤格差をもたらすことにつながる。これでは戦術を語って戦略を見失うことになる。

 まさに今、情報基盤を含んだ次世代基盤の議論を進めていかなければならない。新型コロナウイスルによる社会的課題があぶり出されたのは、議論のチャンスともいえる。コロナ後の世界が従来の世界と違うのならば、既存の前提を疑い、あるいは廃して議論を進めることが必要だろう。